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彼は肩をすくめてリッコの指から逃した額を斜め後ろに傾けた。にや。と笑ったその表情を見咎めたのはリッコではなくユーリンだった。
ユーリンはその場では何も言わなかったが、そのうち聞いてみようと思って心のメモ帳にあることを書き込んだ。
リッコは指さしていた手を下ろすと、ずかずかと乱雑に歩を進めてジェスタの目の前まで来てこう言った。
「ジェスタ! オードを魔法の先生に呼んで! 簡単な魔法ひとつだけでいいから、使えるようになるまでレクチャーしてもらいたいの!」
「わたしからもお願いしますジェスタさん。だって、海のものとも山のものともつかなくて、どうしたら使えるようになるのかさっぱりなんですもの」
畳みかけるように詰め寄るリッコと対照的に、ユーリンはふわりとした口調で笑いながら言った。
「あ〜、また呼ぶのか……値が張るなあ」
ジェスタは最初は渋っていたが、その表情は笑いを抑える時のそれだった。すぐに小芝居をやめて、悔しそうにあごにうめぼしを作って涙ぐんでいるリッコの鼻先で両手をぱんぱんと数回合わせる。
「なんてな。安心しろ。もう手配済みだ。来週から先生が来てくれるぞ」
「やったぁ! さすがジェスタ、良い仕事!」
「ありがとうございます、ジェスタさん」
「だが、金がかかってるのは本当だからな。無駄にするなよ二人とも?」
「「はーい!!」」
リッコとユーリンは手に手を取り合って、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねている。
ハヤタは笑いを堪えて肩を震わせながらジェスタのそばまでやってきて、小さく耳打ちした。
「大変ですねジェスタさん?」
「ごきげんが上手に取れれば、あれでも十二分に癒しさ」




