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杖を拾って立ち上がる。
空いている方の手を緩く握って口元に当て、真剣な面持ちで考えた。
魔法が使えない。
杖が動かない。
それはなぜ?
考えられるのは精霊を呼べていない場合と、呼べているけれど杖に取り込めていない場合。後は魔法を発動させるための呪文が間違っているか、精霊にどう動けばいいのかを分かりやすく指示できていないなど。
リッコは自分の目を指さしてユーリンに問いかけた。
「ユーリン。あたしの目、青くなってない?」
「何言ってんのリッコ。大丈夫?」
「いいから、よく見て?」
「よく見てもいつも通りの焦げ茶色よ」
「呼べてないのね……」
何が? と聞いてくるユーリンにリッコは生返事で答えて、中庭に敷設されている水やり用の蛇口を開けにいく。そして水の音を聞きながらそばに立ち、口の中で水の精霊を呼んだ。
「巡れ、流れ、水の精霊よ──汝の器は我が腹の前」
「それなぁに?」
蛇口の近くまで、後ろからついてきていたユーリンが問いかける。両目を閉じていたリッコは声だけでユーリンの位置にあたりをつけて片手を上げ、彼女に待ってもらった。
両目を開けて杖を両手で握り込む。蛇口へ向けて杖の頭を掲げ、堅い口調で告げた。
「走れ水よ。あの空へ向かい、真っ直ぐに上へ上へと。その行く手には陽の光を砕いたようなきらめきがあると知れ」
「……」
蛇口から流れる水は、杖を掲げる前と後とでわずかな変化も見られない。
全身から緊張を解きほぐして、はあぁ。と深いため息を吐き出すリッコ。
ユーリンは自分の杖を小脇に挟んで小さく拍手した。
「かっこいい。水が動いたら言うことなかったのに」
「はは……やっぱり何度も試すのはダメなのかしら」
蛇口を閉めてから杖を持った両手を頭の上まで上げて伸びをする。腕を左右に傾けてストレッチ。強張っていた身体がほぐれていくのが心地よい。
「ね。開発部門はオードさんを呼んでレクチャーしてもらったんでしょ? わたしたちも呼んでもらわない?」
「そうね……それが良いかもね」
「そしたら善は急げ。さっそくジェスタさんのところにお願いしにいきましょ。ね。ほらほら」
実は自力で魔法を使えるようになりたかったリッコは、乗り気なユーリンに促されてちょっとばかり重たい足を動かして彼女についていった。




