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傍目に見ても上機嫌なことが分かるのはリッコを見送った後のハヤタだった。
ふふ。と閉じた口の中だけで笑って目を閉じる。思い出すのは彼女の潤んだ瞳と赤く染まる頬。
確実に意識された自分。してやったりと拳を握って、にやりと深く片方の口角を上げる。
その後、はたと思い出して頭を左右に振った。
「いやいや、そうじゃないだろ俺! 距離を置くんじゃなかったのかよ!」
くそぉ!
大声で叫んで今さらな後悔を飲み込むと、彼の頬も赤くなった。それを隠すために机に突っ伏す。
「ハヤタ先輩、どうしちゃったんすかね……」
「触らぬ神だ。しばらく放っとこうぜ」
向かいの列に座っている二人がこちらを見てひそひそと話していたが、放っておかれてむしろありがたかった。
* * *
ケイオン棟の中にも食堂は存在している。そう大きくはないがメニューは充実している。リッコはナポリタンにセルフサービスの粉チーズをたっぷりかけて食事をした後、トイレに行くため一緒にいたユーリンと別れた。
一人で角を曲がると、向こうからオードがやって来るのが見えた。ジェスタも一緒だ。
リッコは手をぱたぱた振って二人を出迎えた。
「はいオード。ジェスタもおつかれ。オードを呼ぶって聞いてたけど、今日だったのね」
「なんだリッコ。開発の状況にも詳しいのか。大方ハヤタ情報だろう?」
「あは。分かっちゃう? ──で、どうだったのよオード。首尾は?」
ジェスタに向けていた笑顔を、次いでオードへ。良い報告を期待して、にっこりと。
オードもリッコと同じような笑顔を返した。
「ああ。手応えあったみたいだよ。今週中にはテストに耐える試作品ができてくるんじゃないかな」
「本当!? やったぁ!」
指を鳴らした後で万歳するリッコ。
それを微笑ましそうに見守るのは男性二人組だ。
これから昼食の二人と別れ際、オードはリッコにふと問うた。
「そう言えばリッコ、ハヤタに何か言ってたのか?」
「まあ色々。なんで?」
「おれが説明してたら、『リッコと同じこと言ってら』って、つまらなさそうに言うもんでな」
「ぷ」
そーれ見ーたこーとかー
リッコは両手を腰に当てて乏しい胸を張り、ふふんと威張った。
それを見たオードは、あんまりいじめてやるなよ。と、金色の眉尻を下げて告げた。




