3-20
机の上に杖を寝かせて彼も椅子にかける。杖は大きな机を二つ並べてようやく収まるサイズだ。内心でなるほどと思っているとハヤタが告げた。
「後は刻印をな。入れるだけなんだが──みんなそれに苦心してて。進まねえな」
「刻印……ああ、魔力の走る路になる?」
「よく知ってんなお前。そう。その路を頭のてっぺんから石突の先まで掘り込むんだが、路が繋がらずに途中で切れちまったりすんのよ、これが」
「使ってるのって木じゃないの?」
「木だぜ? でないと上手く彫り込めない」
「それなら木目に沿って彫ればいいだけじゃないの?」
「そうなのか?」
「違うの?」
リッコは昔ナナカの家で見た杖の製作工程を思い出して首を傾げた。ナナカは刻印を彫るのにそんなに苦心していたように見えなかったのだ。何かゆったりした曲調の歌を歌いながら、小刀を杖の表面に滑らせて、床の上に落ちた木屑を足で払い除けて。
すると杖の全体が淡い金色に光って、それが完成の合図なのだと言っていた。リッコが見たのはオードに授けられた杖だ。とてもうらやましかった。杖を右手に、薄い手引き書を左手にして誇らしげに胸を張る彼は、リッコには、とても。
「リッコ? どうした?」
「──あ。ごめん、何でもない」
「ずいぶん遠い目してたけどな。まあいい。ともあれ、もう少し時間くれよ。実はオードを呼んで杖の見本を改めて研究させてもらうことになってんだ」
「へえ、杖の見本ってもうもらったのかと思ってたわ」
「あるんだけどな……刻印、そっくりに彫っても魔力が走らなくてよ」
「そりゃムリでしょ。杖ごとに通りやすい路は違うし、属性にも気を遣わなくちゃ」
「まあ後はオードが来てからだ。素人には限界ってもんがあるのさ」




