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ふんふんふふん。と鼻歌交じりに棟内へ入って、テストスペースへ直行することはせずに開発部門の人々が集まっている区画へ立ち寄る。
まだ杖の試作品は出来ていないと聞いている。それが仕上がるまでテスターたちは座学しかすることがないのだ。現状を確認しておくのも有意義なことだろう。
開発部門のスペースは大きな机を四つずつ二列に並べてあり、それが通路の手前と奥にもあった。よく見ると机二つごとに椅子が一つ置いてあり、どうも一人当たり二つの机が割り当てられているようだった。そんなに広いスペースをあてがう必要があるんだろうかと、リッコが呆然としていると、後ろからうれしそうな声が聞こえた。
「お? リッコじゃねぇか。ようこそ開発部門へ! 何の用だ?」
「あ、ハヤタ。ううん、用事らしい用事は……ごめんね無いんだけど。ケイオンの試作品、どのくらい出来たのかなーって思って」
「ああ、テスト部門には待たせてて悪い。そりゃ気にもなるよな。見てけ見てけ」
ハヤタはそう言うと奥から二番目の席にリッコを誘って、空いている椅子を持ってきた。
自動では動かない折りたためるパイプ椅子。えらく昔風だが、ケイオン棟にやって来てからリッコも同じものを使っている。
それに礼を言って腰かけるとハヤタがロッカーを開けて、中から杖を持ってきた。ずいぶん長い。立てたらハヤタの身長よりも高い。頭の部分の方が太めで石突の方へ向けて細くなっていくそれは全面的にでこぼこしていたが、素材が木製ならば本来の形を活かした結果のようにも見えて、リッコの目には杖として完成しているように映った。
「それ、まだ完成してないの?」
「してるように見えるか?」
うなずくリッコと対照的に、ハヤタは首を横に振った。




