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『──それは構いませんが──本気ですか? 師匠。貴女は反対派でしょうに』
『宗旨変えくらいいくらでもするわ。泣きながら夢枕に立たれたのよ。会わないわけにいかないわ。とにかくその話が本決まりになったらレベル・ファルコンで教えてちょうだい』
中央北では速さを表すのに鳥を使うのが一般的だ。中でもファルコンは最高速の鳥であり、ナナカの言は要するに何を置いても、いの一番に知らせろと言っているのだった。
風を繋げることができれば風の便りの魔法は相手の姿が見えなくても声を相手の耳に届けることができる。オードはサッシを開けた窓辺に立ち、特製のレモネードを飲みながら、海と大陸を超えた遥か向こうにいる師匠に連絡を取っていた。
彼女が言っているのは、リッコを追い払ったその日の夜にナナカが見た夢の話だ。
リッコはぽろぽろと絶え間なく泣きながら会いたい会いたいと繰り返していたという。
『もしそうなったら、貸し一つですよ師匠。おれの大口のクライアントを譲るんですから』
『あら! そうしたらその代わりに私が今している魔法書の翻訳を譲ってあげるわ。同じ仕事先でしょ』
『そう来たか! ははは、分かりましたよ。なるべく例の話が成立するように努力してみましょう』
『あら嬉しい。よろしくねオード』
風の便りの魔法を閉じて風を解放すると、その風が室内をひと舐めしてから外へ流れ出ていった。さすがに少し寒かったか、窓を閉めてグラスを一息に空ける。と、きつい酸味に舌を出した。そうしながら閉じていた片目を開いて部屋の中央にあるローテーブルにグラスを置いた。
柑橘系のドリンクは消費した魔力を回復するのに非常に良いのだ。様々な属性の精霊を召喚して多様な魔法を使ってみせたオードの魔力はもう枯渇する寸前だった。
魔力がなくなると、反作用で復元を試みる身体は深い眠りに落ちてしまう。そうすると魔力が満ちるまで何をされても起きなくなってしまうので、魔法使いは魔力が空になるまで魔法を使うことはほとんどない。




