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オードの宿泊先は駅への道のりの途中にあったので、リッコはそこまで一緒した。
話題はもっぱらナナカの家へ行く方法について。オードは困惑していたが。
「住所ならいくらでも教えるが──どうしてそんなにナナカに執着してる? かれこれ七年くらい音沙汰なしだったおまえが」
「遠くに引っ越したからね。本当はナナカがスマホでも持ってれば良かったけど、全然なんだもん」
「教えるのは伝書鳩の使い方のほうがいいか? ナナカと連絡が取れる」
「仲直りしてからでないと、お返事くれなかったら一生立ち直れないわよ!」
高校を卒業するまで自宅の周りに人家のなかったリッコにとって、ナナカは幼馴染であり唯一の友だちであり、また姉代わりでもあった。このまま会えなくなるなんて、絶対に嫌だったのだ。
オードが泊まっているホテルの前で二人立ち止まって真剣な面持ちで打ち合わせ。西洋人丸出しのオードの外見は人目を引く。が、周囲の視線を物ともしない二人は顔を突き合わせて更なる意見交換に勤しむのだった。
「オードがナナカと住んでるのは中央北の島国なんでしょ? 帰りも魔法? 飛行機であたしと一緒に行かない?」
「空間魔法は一度に三人まで転送が可能だ。リッコが本当に来たいなら魔法で行こう」
「本当に? 行きたいわ……でも、オードいつまでここにいるの。あたし多分お仕事休めないから、行くのは週末がありがたいわ」
「ああ『いつまで』な。それが不明瞭なんだ実は」
「え?」
不明瞭とはどういうことかと深掘りしたかったが、オードがそろそろお開きにしようと言ってホテルへ入っていってしまったので、追いかけなかった。また社内で会えるかと去り行く背中に聞いたら、手短かに肯定の返事が返ってきたからだ。
「会いたいわ。ナナカ……」
今はまだ届かない言葉。声が届く距離まで来たら、真っ先に謝りたい。
そして──そして、それから。
魔法使いになるには、本物の魔法使いの弟子になることが近道だとオードは言っていた。
リッコはすっかり日が沈んで寒さが厳しくなった道の上で、カバンから取り出して首に巻いたマフラーへ顔の下半分を埋めた。




