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「いや。それはない」
「でもオード!」
「さっきリッコが呼んだ精霊、水だけじゃなくて光と冷気もいたんだ。才能がない人間には多種の精霊の一斉召喚なんて芸当はできないさ」
「オード……」
「考えすぎんなよ。才能は無いと思った瞬間に枯渇するもんだ。例え本当は有ったとしてもな」
「ハヤタ……」
結局、十四、五人が試してまともに魔法が使えたのは数える必要もないほど極少数だった。
オードが実演コーナー終了のあいさつをしている間、その『魔法が使えなかった人々』は身を寄せ合って一通りいじけていた。
「くっそ。なんで使えねえんだくっそ」
「そもそも属性って何なのよ。わたしの中にそんなのないわよ」
「杖がやけに暖かくなったが、後は何も起きず仕舞いで……」
「みんな! 問題は『何がいけなかったか』よ。ハヤタどうやったの?」
「いや、どうも何も、魔法使いに言われたのをそのまま……」
「だめだ使えないわ。しっしっ」
「ひでぇ! お前が聞いてきたんだぞリッコ!」
キックオフミーティングは魔法使いのあいさつを終えると、このプロジェクトに関わる上役の総括で幕を閉じた。リッコの心に残ったのは杖のコンセプトだった。いわく、『みんなに魔法を』。
──ああ、実現してほしい。
いや、させるのだ。
このプロジェクトを成功させたら、市場に出た杖を買おう。そして──そして? どうすれば良い? ナナカに会いに行く? でもナナカは、それでは機嫌を直してくれない気がした。大好きな魔法使い。もう一度、笑い合えるようになりたい。
いや、魔法使いである前に、彼女は友だちなのだ。とても大好きな。
それなのに──。
また涙ぐんだリッコは、魔法が使えなかったのがそんなにも悔しかったのかと周囲に思われていたが、オードだけは別のことを考えていた。彼はアイロン済みのハンカチをそっと差し出すと、首を傾げた。
『師匠のことか?』
「よく分かるのね……」
『ほんの数日前だからな』
「まだ怒ってるわよね?」
「それはどうかな。リッコのこと、心配してたよ」
リッコが瞼を閉じると、それまで目元に溜まっていた涙がぽろりと頬を転がり落ちていった。




