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それはまだリッコが小学生の頃。
林業に従事している父の都合で山奥に住んでいたリッコは、いつも通りオンラインでの授業を受け終えた放課後に雑木林へ遊びにきていた。そこで見つけたのは小さくて短い、明るいトンネルだった。自分の小さい体でも、通り抜けるためには四つん這いにならないといけない。トンネルの向こう側には、白い壁に焦茶の屋根の小さな家が一軒、柔らかな若葉色の小さな庭と共に森の中にたたずんでいた。
「◯◯。◯◯◯? ◯◯?」
異国の言葉で後ろから急に話しかけられて驚いてしまったリッコは、振り返りざまその優しげな声の主を見上げて、顔を真っ赤にして硬直した。年の頃は二十代前半のその女性は、同性でも見惚れてしまうほどに綺麗な顔立ちをしていたのだ。
何か言われたから何か返さないといけない。何を言われたか分からないリッコはおどおどと思い付くことを告げた。
「あ……ごめんなさい、あの……あたし、遊んでただけなの」
「あらあら、珍しいわ。用事なしで純粋に遊びにきていただけたなんて。うれしい」
光に透けてお日さま色に輝くプラチナブロンド。淡い金褐色の瞳が楽しそうにきらきらしてリッコを映し出している。すっと通った鼻筋に小ぶりな唇、卵形の頬から顎のライン。美人さんだと思ってぼんやりと見惚れていると、彼女が身を屈めてリッコの肩に手を置いた。少し甘いような爽やかな香りがする。何とも微笑みがまぶしい。