3-9
「リッコ? お前」
「さて、ここからはチャレンジコーナーです。どなたか魔法が使えるか試してみたい方はいらっしゃいませんか? 私の杖をお貸ししますよ」
「杖の貸し出し!?」
それを聞くと最前列にいたリッコは目の色変えて大きく一歩を踏み出し、めいっぱい挙手して言った。
「はいはい! あたしやる!」
「うぉぉ、俺も!」
リッコとハヤタがオードへ詰め寄ると、他の志願者もゾロゾロと後に続いた。
「じゃあ一番早かった。リッコから」
「きゃあぁ♪ やったぁ!」
語尾を弾ませて両手を差し伸べる。オードはリッコに杖を渡す前にまず握手を求めてきた。小ぶりな手を握るなり、うんうんとうなずくオード。少しばかり身を屈めて目線の高さを合わせると、風魔法で彼女にしか聞こえない言葉を送って寄越した。
『おれたちと会わない間も試みは続けてたんだな。えらいえらい』
「分かるんだ?」
「もちろん。リッコは水属性だな。さっきの雨、色付いて見えなかったか?」
「うん! 見えたわ、濃い青色だった」
「雨の色ぉ?」
ハヤタがオードに向けて首を傾げた。その間、オードから渡された杖をリッコは感慨深げに両手で握りしめる。その杖の頭の部分に額を当てて目をつむり集中を始める。前髪が湿り気を帯びた。そこで今度はオードが首を傾げる。
「──? リッコ……?」
呼べてるのに、杖に入っていかない。
ぼそっと呟いた言葉を聞きとがめたのはリッコではなくハヤタのほうだった。杖に何か入るのかと尋ねると、精霊がね。と手短に答えてオードが杖を引き寄せる。




