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「魔力とは自身に内在しているものや自然界に存在しているものなど多様なのですが、みなさんには分かりやすく、内在しているものだけを使って魔法を行使していただこうと考えています」
「その火は普通に物も燃やせるのだろう? 消火栓などでも消せるか?」
リッコはジェスタの質問を聞いて、なるほどさすがだと思った。
管理職はいざという時のことを常に考えないといけないのだ。
「純度百パーセントの水なら消せます。薬剤のものでは消えませんね。確実なのは魔法の雨が消せます。こんな感じです」
今度はオードはスローテンポの歌を歌いながら杖の頭で鉄板の外周をなぞり、空いている方の手で雨を招き落とした。
始めのうちは火の勢いが強くて雨の一粒二粒ではすぐに蒸発してしまっていた。だが、やがて炎に穴をあける勢いで雨がばたばたと降ってくると、鉄板にできた水玉模様はすぐに一面を覆いつぶす水びたしの様相に変わった。
──あの雨、深い青に光っているわ──
青く光る雨は鉄板の置いてあるところだけに降り注ぎ、それ以外のどこも濡らすことはなかった。
誰かが濡れてしまった鉄板を持ち上げて、すぐに乾かせるかと問う。
彼はもちろんだとうなずき、詩の朗読のような調子で何事か囁いた。
すると中庭に集まっている人々の間を温かな風が吹き抜けていく。
別の誰かが、淡いオレンジ色の風だとつぶやくのが聞こえた。
気になる発言はハヤタからも。
「随分と赤い火だったな。リチウムか、ストロンチウムか……?」
「赤い? 普通の黄色っぽいオレンジ色じゃなかった?」




