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──うそ!? まさかあれ、オードじゃないの!?
リッコは口をぽかんと開けて、司会席へ移動しているオードを指さした。彼は視線を合わせて片目を閉じると、口を動かす。
『後で』
その口の動きに合わせて、オードの声が短く耳の中に響いてきた。風魔法か。くすぐったくてリッコはわずかに身じろいだ。
土曜日にナナカの家に行った時にも見かけたが、七年前と比べてちょっと渋くなったかと思うが、そう変わらない。ただ魔法の腕はリッコが訪ねない間に格段に上がっているようだ。確かオードの属性はナナカと同じで光だったはず。自分の属性ではない魔法もこんなに自然に使いこなしているのだから。
「本日はお招きいただきありがとうございます。私からはまず初めましてのあいさつに代えまして自然光を飲み込む魔法の闇と、それを追い払うこれも魔法の光。続きまして──」
ナナカに弟子入りしてすぐの頃にはほとんど話せなかった極東語も、リッコが中学を卒業する頃には流暢に話すようになっていたのを思い出す。
それがいつの間にか丁寧語まで使うようになって。もうリッコよりもよほど上手だ。
そんなことを考えていると、急に視界が真っ黒に塗りつぶされた。小さく「ゎ」と呟いた隣でハヤタが「うぉお!」と面白そうに叫んでいた。くす。と笑う余裕があるのは、リッコがこの闇魔法にかかるのは初めてじゃなかったからだ。
雷魔法の練習をしていたオードを邪魔して、「危ないことをしたのよ反省しなさい」とナナカに怒られて、罰を与えられた際に視界を奪われたのだ。




