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普段働いているのとは別の棟に連れて行かれたリッコたちは、動揺もあらわになった顔と全面ガラス張りの建物とを見比べてその場に立ち尽くした。
ジェスタが二人にカードを差し出す。
銀色のプレートは表も裏も顔が映り込むほど磨き上げられていて、表と思しき面に大きくフルネームが書かれてあった。その名前の右下には黒く塗り潰された長方形がある。本来なら写真が印刷されているであろう位置だ。見れば反対側──名前の左上には小さな丸い穴が二つ空いていて、そこに透明な小さい玉がはめ込まれている。
このカードキーは通常の業務エリアで使われているものと変わらず、所持していればリーダーにかざさなくてもゲートを通過できるという。異なるのは動作音で、普通のゲートは通過する時に『ピ』と笛のような音が鳴るが、このガラス張りの建物のゲートは潜り抜けると『フォン』という風のような音が聞こえてきた。
「うひゃあ。やったぁ〜。憧れの極秘エリアへ今まさに侵入したわ。ここから先はまったく未知の領域。名前すらも明かされない知られざる製品との邂逅が秘密裏に始まろうとしてるのよ」
「いやあの、確かに極秘エリアみたいだけど……何もそこまで……」
「とめないでユーリン。この胸の高鳴りを表現しなければいけないの! とか言って」
「ところでコードネームはこの棟の中にいる間は口に出しても良いぞ」
「ケン……何でしたっけ?」
「ケイオンよ、でも『杖』って呼びたいなぁ」
これから育てていく製品を想ってひとりしんみりとするリッコ。その思い入れの深さなど預かり知らぬところからジェスタが声をかけてくる。
「モノが『杖』だと分からないようにするためのコードネームだからな、却下だろう」
「ちぇ〜」
「やだっ、もうミーティング始まりそうよ、二人とも急いで!」
「やったぁ、最前列空いてる!」
「リッコ、わたしたちは一番後ろにいるからね」
「はぁい」




