2-19
起きてみると目尻から耳にかけて乾いた塩気の跡が残っていた。
夢でも見て、また泣いたのだろうか。少しも覚えていない。
窓から外を見ればまだ暗い。どうやら曇っているようで余計だ。
ただ、もう習慣になっている。精霊召喚の試みを行なうのにはちょうど良い起床時間だった。
リッコは迷った。
魔法の杖と説明書がないままでは、例え召喚だけができるようになったとしても、そこから先が立ち行かない。
夢を諦める時が来るとしたら、それは今なのではないだろうか──。
それは賛同か。それとも反対か。くきゅるるると、腹の虫が鳴った。
リッコは毎週日曜に行なってきた光の精の試みをせずに台所へ行き、食パンを焼かずにそのまま食べてみた。
そんなに不味くはない。
食欲が無くならない内は大丈夫だ。
けれど料理は面倒で、いつもスクランブルエッグにしている卵を今朝は生のまま飲み込んだ。栄養になれば何でも良い。そんな気分だった。
椅子に座ってうなだれて、無意識のうちに呟く。
「きらめけ、輝け、光の精霊よ──汝の宿は我が眼の前」
目を閉じながら唱える呪文。もしも召喚が成功しても、これでは分からない。が、まぶた越しに光を見たような気がして、彼女は慌てて両目を開けた。
「え。え……ちょ。来たの? 来なかった? 気のせい??」
左右に体ごと頭を振って、動揺しきりに周囲をあらためる。光は天井からこぼれるLEDのものしか見えない。次に足元へ視線を転じた。影を探しているのだ。天井からのものが一つ、窓からのものが一つ。三つ目のものが見えれば、それこそが精霊の落とした影だ。よくよく瞳をこらしたが、残念ながら二つまでしか彼女の目には映らなかった。
「……ふぅ。寝直そ」
空腹も落ち着いたところで、リッコは寝室へ引き上げていった。
いつもなら確認していたものをこの日だけは忘れていた。瞳の縁取りをまだチェックしていなかったのだ。彼女の焦げ茶色の瞳は今は、その外周が金色に光っていた。




