表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/113

2-19

 起きてみると目尻から耳にかけて乾いた塩気の跡が残っていた。

 夢でも見て、また泣いたのだろうか。少しも覚えていない。

 窓から外を見ればまだ暗い。どうやら曇っているようで余計だ。

 ただ、もう習慣になっている。精霊召喚の試みを行なうのにはちょうど良い起床時間だった。

 リッコは迷った。

 魔法の杖と説明書がないままでは、例え召喚だけができるようになったとしても、そこから先が立ち行かない。

 夢を諦める時が来るとしたら、それは今なのではないだろうか──。

 それは賛同か。それとも反対か。くきゅるるると、腹の虫が鳴った。

 リッコは毎週日曜に行なってきた光の精の試みをせずに台所へ行き、食パンを焼かずにそのまま食べてみた。

 そんなに不味くはない。

 食欲が無くならない内は大丈夫だ。

 けれど料理は面倒で、いつもスクランブルエッグにしている卵を今朝は生のまま飲み込んだ。栄養になれば何でも良い。そんな気分だった。

 椅子に座ってうなだれて、無意識のうちに呟く。


「きらめけ、輝け、光の精霊よ──汝の宿は我が(まなこ)の前」


 目を閉じながら唱える呪文。もしも召喚が成功しても、これでは分からない。が、まぶた越しに光を見たような気がして、彼女は慌てて両目を開けた。


「え。え……ちょ。来たの? 来なかった? 気のせい??」


 左右に体ごと頭を振って、動揺しきりに周囲をあらためる。光は天井からこぼれるLEDのものしか見えない。次に足元へ視線を転じた。影を探しているのだ。天井からのものが一つ、窓からのものが一つ。三つ目のものが見えれば、それこそが精霊の落とした影だ。よくよく瞳をこらしたが、残念ながら二つまでしか彼女の目には映らなかった。


「……ふぅ。寝直そ」


 空腹も落ち着いたところで、リッコは寝室へ引き上げていった。

 いつもなら確認していたものをこの日だけは忘れていた。瞳の縁取りをまだチェックしていなかったのだ。彼女の焦げ茶色の瞳は今は、その外周が金色に光っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最初の二行の描写がとても印象的です。夢で見た何かに涙した跡なのか、何気ない朝の一場面のようにも、何かの伏線のようにも、感じられました。 無意識のうちに呟いた呪文と、光と影。そして、リッコ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ