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リッコは街中まで帰ってくると、泣きすぎて真っ赤になった目を落ち着かせるために目薬を買った。普段は必要ないから使い切りタイプの物にした。それをレジのそばで早速使って目がしみるのに耐えていると、珍しくジェスタに会った。
「リッコじゃないか。目、どうかしたのか」
「ジェスタ……ううん。目はちょっとね」
「お前も花粉症か?」
「『も』? ってことは」
店員がゴミ箱を差し出してくれたので使い終えた目薬のケースを捨てたリッコ。流れでジェスタの買い物カゴを見やると『花粉症』と大きく書かれた箱が入っていた。問いかける目線で見上げるとジェスタが首を振る。
「いや、私ではなく妻がな。もしヨモギが原因ならこの薬がお勧めだぞ。眠くならずに涙と鼻水を止めてくれる」
「ああ、いえ。あたしはまだ花粉症じゃないのよ。でもありがと」
「月曜は通常通り出勤できそうか?」
「もちろんよ」
「それなら良かった。出社したらまず私のところに来てくれるか。新しい仕事の話だ」
「分かったわ」
我ながら口数が少ないと思うリッコだ。だが今日ばかりは見逃してほしかった。ジェスタも気付いてはいる様子だったが、特に追求してくるでもない。大人なのかなと思いつつリッコは先に場を辞した。
何もかも面倒くさい。もう何もしたくなかったが、大金を持ち歩くのは怖いので二十四時間運営している貯蓄専用のATMで貯金した。口座はいくつか持っているがどこも上限は二百万だ。このATMは優先順位を設定しておけば入り切らなかった分を次の口座に入れてくれるから面倒な操作が要らない。それに一度に挿入できる金額も五百万と余裕がある。普段は使わないが、今この時にはありがたい便利さだ。
「感謝。できるうちは大丈夫、って──教えてくれたわね、ナナカ。それが例え何であっても」
短いため息を吐き出す。食事は面倒だったから食べなかった。シャワーだけして、さっさとベッドにもぐる。きっと明日は空腹で目が覚めるだろう。むしろそうであってほしい。布団の中で身を丸めたリッコは、しぼらく眠れなくて今日の出来事をはんすうしていたが、自分の何がいけなかったかを考えるうちに少しずつ意識を手放していった。




