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リッコはハヤタ、ジェスタと三人で一つのストーブを囲むと様々な燃料で暖を取れるかどうかを確認していった。新聞紙ひとつ取ってもインクや紙の種類とその組み合わせとで優に二十種類は超える。そこにコピー用紙や葉書、牛乳パックなどを含めると、とてもではないが一日でテストできる量ではなくなってしまう。そのためあらかじめ、どの燃料を使ってどの消火システムと組み合わせるかは決められていた。順調にいけば七人四時間で終わる仕事だ。
今のところ順調だった。火は消えるべき時には消え、燃え続けるべき時には燃えている。
ジェスタは隣に立って無言で火を眺めているハヤタに話しかけた。
「ハヤタは今回のストーブの開発には関わっていたのか?」
「いえ。俺はこいつにはノータッチでした。今日も本当はメインで担当してた奴が来るはずだったんですが、今朝、急に来れなくなったって連絡が入りまして。代わりに俺が」
「へえすごいじゃない? 担当じゃない製品にも詳しいなんて」
「……いや、午前中から出社してマニュアルを読み倒してたよ。そのおかげだ」
「やあ、えら〜い」
「……まあ仕事だからな」
まだちょっとぎこちないが、そこそこ会話してくれるようになった。それがうれしくて、リッコはハヤタにしょっちゅう言葉をかける。先ほどアンリが言っていたのは本当だったようで、今は彼の顔は赤くない。やはり緊張していたのだろうか。初めて会う相手を前にすると緊張するのは分からなくもないので、そこは触れないでおいた。
「ジェスタとハヤタは前から知り合いなの?」
「ああ、ハヤタは五年前に一年間、テスト部門にいたからな」
「そう。それでキャリアの相談に乗ってもらったんだ。その結果、開発部門に移った」
「ふうん。それじゃあたしの先輩なのね。五年前と今とじゃテストは違う? 割と変わらない?」
三人で雑談しながら手は動かす。時々奇妙な現象が発生したが、テスト部門トップのジェスタと開発部門のエースのハヤタがいるおかげで、リッコは手伝うだけでほとんどの問題を解決できた。処理票を端末に入力するのが主な仕事で、そこだけ忙しかったが。
三時に全員で集まって、中間報告を兼ねておやつの時間が取られた。




