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「──なので、不完全燃焼がないというのが売りなんだ。後は紙さえ入れておけば勝手に薪を作って良いタイミングで補充してくれるというところな」
「でも売りってさあ、ハヤタ。そのせいなんでしょ? 例の不具合。ストックしている燃料が無くなるまでずっと燃え続けてしまうってやつ」
「お前リッコっていったか。いや、原因は正確には違うんだ」
ハヤタは新聞紙を燃料口に投入してフタを閉めた。まず翡翠色の視線だけリッコの立つ方へ寄越したと思ったら、今度は彼女に背を向けて着火スイッチを押す。リッコを視界に入れないまま、ハヤタが続けた。
「本来なら時間制御や人感センサーで自動的に火を消すんだが、今回のバグはそれらの条件が被った際に火を消す仕組みが働かなくなることでな」
「ふぅん? 危ないわね」
「……ああ」
リッコは生返事を返すハヤタの背中しか見えなくなったのでストーブの使い方をよく見ておこうと立ち位置を変えた。するとハヤタの動きが止まる。リッコはハヤタの隣に立って先ほど見えなかった着火スイッチの位置を聞く。ハヤタは少しばかりぎこちない動きで火のマークが付いている出っ張ったスイッチを指差した。
「ハヤタ、急に口数、少のうなってへん? いつもはもっとお喋りさんやのに。それに何か顔が赤いような……」
「余計なお世話ですよアンリさん! いつもと変わりません!」
「なに切れとんねん。変なハヤタ」
いつもと様子が違うなら緊張でもしてるのかと思ったリッコだ。アンリと呼ばれた赤っぽい茶髪をボブカットにしている女性はまだ釈然としないようだったが、ジェスタがテスト開始を告げると定められた持ち場へ散っていった。




