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「スピード上げ下げの後。左だけ。黒から灰色」
端末に不具合の処理票を作らせるためのキーワードを記憶させてから元いた場所へ戻る。自分の靴に履き替えてからテスト対象のパンプスをまじまじと見つめた。脱いだ段階で靴は左右ともデフォルトカラーに戻ってしまっている。コネクタからシートを取り外すと、左のものは一部が焦げたように茶色く変色していた。『カラーシートが焦げた』と処理票に追記して報告ボタンを押す。次に『全力疾走しただけでカラーシートが焦げたの。このままテストを続けていても大丈夫?』と端末に入れて送信した。これはジェスタへ宛てたものだ。彼はすぐにやって来てリッコから焦げたシートを受け取った。
「全力疾走ってどのくらいだ。そんなに負荷をかけたのか?」
「スニーカーならともかくパンプスだもの。負荷なんてそんなにはかかってないわよ。それにあたし走るのは平均くらいで、そんな速くなかったし」
「すると何だ。歩き方に癖があるとか」
「そう言えばあたしの靴、傷むのは踵なのよね。──あたし、このテストには向いてない?」
「いや……ふむ。一先ず歩走行が必要なテストは飛ばしてな、色を確認する項目だけ進めてくれ」
「飛ばしたテストは?」
「他の人間にもやらせてみる。それで同じ結果になれば不具合として登録するわけだ」
「分かった。できる項目から先にやるわ」




