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リッコはデフォルトカラーの無色透明な靴を試し履きして履き心地を確かめた後、鏡にも映してみせた。何だか見た目はシンデレラのガラスの靴みたいだ。が、靴の内部の感触はクッションの上に布を貼っているような、ごく普通の靴と同じものだ。どうやってこんなに透明なのか分からないが、企業秘密なのだろうと考えて特に追求しなかった。
始めはベーシックセットとして販売時に同梱される五色──黒、紺、茶、白、赤をテストしていく。黒の色片を左右両方の靴の踵へ差し込むと、踵から爪先へと徐々に温もりが伝わっていき、それと同時に靴の色も変化していった。温もりを追いかけるように踵から爪先まで一列ずつ順に黒で塗りつぶしていく。染色が終わると、ぴ。と小さい電子音が鳴った。
「ええ、これずっと温かいままなの。夏場はキツそうね。──それに、色の変わり方がちょっと地味すぎかも。ていうか遅いのか。そうね、遅いんだわ。朝の出勤時にこれはちょっとね」
連続稼働でキーワードを拾うモードにしている端末が震えて、『夏場』『温かい』『地味』『遅い』『出勤時』などの言葉が画面に表示されている。それはそれとして、まずは日常的な運動をしてもフリーカラーが働いたままでいるかどうかの確認だ。黒いパンプスに包まれた足で床を蹴る。リッコは歩きから少しずつ速度を上げ、小走り、走り、疾走、全力疾走までいく。続いて今度はスピードを落とし、やがて止まった。するとどうしたことか、左の靴だけ灰色に色褪せている。




