2-3
定時で仕事をあがる前に様子を見に来てくれたユーリンを手を振って見送る。
正直、精霊召喚の練習をしなければもう一時間はゆっくり眠っていられるのだ。自分の都合でしている無理なら、身体なんて壊さない。何しろ後二ヶ月で目標金額まで達成できそうなところまできた。杖を手にしたら召喚した精霊に方向付けを行えるようになるはず。純粋な力の塊である精霊力を使って何をさせるのか。前方にある障害物を打ち壊すのか、それとも後方からの攻撃を防ぐのか、はたまた空中浮遊して地面の罠を回避するのか──。
「まあ、宝探しに行くわけじゃないし、そこまで仰々しい魔法は必要ないけど」
はは。と乾いた笑いをこぼしてリッコは休憩室を後にした。体育館は日が暮れると少し肌寒い。が、荷物の積み下ろしや全力走行などを行なっていると、さほど気にならなくなってくる。意外と全力で走って引っ張ると荷物が左右に振れて中の物がごちゃごちゃになる。隙間なく詰めれば良いのだが、そんなに入れる物がない場合には困る問題だ。これも指摘しておくことにした。
「バッグが大きめなので入れる物が少ない場合に中の物がぐちゃぐちゃになる」
端末に音声入力して最終的に文字データに変換する。緩衝材を使えば一応解決すること。自前の小さめの鞄の底にタイルを配置したい場合があるが、それは不可能なのかと問い合わせも入力してひとまず備考欄への書き込みを終えた。
ちょうど帰宅を促す音楽が流れ出したので片付けをして戸締りや消灯の確認。業務日報やタイムカードは端末を充電器に挿せば勝手にデータを社内のサーバーへ送信してくれるので手間要らずなのだ。リッコは今日もまた最後まで残って警備員の居ない門をくぐる。AIがリアルな音声で告げてくれる「お疲れさまでした」に「ありがと」と答えて駅まで向かうのだった。




