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本当の本当に一番大切な願い事は、他の誰にも教えない。
叶える前も、叶えた後も、それは変わらないこと。
だって絶対に否定されるから。簡単な表情で一笑に付されて終わるものなら、始めから言わないことにする。
いや──『お仲間』にだけは、明かしても良いのかもしれない。
見付かれば、だけれど。
* * *
「囲え、踊れ、火の精霊よ──汝の遊び場は我が手のひらの上」
リッコは今日も夜明け前に起き出して、朝焼けの空気を胸いっぱいにためながら精神集中の練習と精霊召喚の試みをしていた。まだ自分の属性が何かを知らない。そのため曜日ごとに異なる種類の精霊に呼びかけている。今日は火曜日だから目の前にロウソクの火を灯していた。だが、どの曜日でも自力で精霊を召喚できたことは一度もない。作法では召喚の試みは長く行なっても意味がないと考えられており、五秒から長くても三十秒で終わらせるのが決まりだ。リッコは残念そうにため息を吐くとロウソクの火を吹き消した。
その後、セミロングの茶髪をうなじで一つにくくって軽く化粧を済ませ、瞳の色がいつも通り焦茶色なのを確かめてからもう一度ため息を吐いて台所へ移動する。
トーストを焼いている間にカット野菜を皿に盛ってドレッシングをかける。スクランブルエッグを作り、インスタントのコーヒーを淹れて砂糖もミルクもたっぷり注いだ。
トーストにこれもまたたっぷりのバターを塗り、朝食をゆっくり食べる。その後は食器を片付けて出勤の運びとなる。