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残業を四時間ほどして夜明け前に起きているから睡眠時間は五時間ほど。貴重な時間を無駄にできないので寝る前にはあまりスマホを見ない。寝つきが悪くなるからだ。そのおかげか定かでないが、枕に頭を置いたらものの数秒で眠りの世界へ旅立てる。以前は寝入るまで三十分くらいかかったものだったが、物分かりのいい体質で良かったと誰にともなく感謝するリッコだった。
夢は見たり見なかったりする。
この日、彼女は自室が火事になる夢を見た。火元は古びて壊れかけのコタツだ。現代のアパートはどこも床暖房で、リッコの部屋も例外ではない。なのでコタツが出てくるというだけで、もうその夢はリアリティに欠けるファンタジーだと言わざるを得ない。そのファンタジーな夢の中で、彼女は火喰い竜を召喚して消火活動を行なっていた。頬や前髪を焼く熱の塊と対峙し、じりじりと迫ってくる火の気配に喉を涸らしながら、服にも燃え移ろうとしている面倒な火をその都度、竜に食べさせて何とか事なきを得ている。しかし召喚したのが火属性で良かった。そこまで考えてなかったが、家具や本を水浸しにしなくても済むし、竜も満腹になるしで、ウィンウィンの選択だ。
火を食べ尽くした竜は笑いながらこちらに礼を告げて精霊界に戻っていく。その時。その直前に──竜が何かを言ったような気がするのだが。それが思い出せない。何かとても大切なことだったと思うのだが。
不思議な夢のおかげで、起き抜けにモヤモヤとした気分になってしまった。リッコはそれでも季節が許すうちは精霊召喚の試みを続けるつもりなので、寝不足でふらふらになりながらもベッドから降りてスリッパを履いた。
化学繊維が混ざっている下着は着けずに綿百%のガウンを着て、昨夜仕込んでいた氷がすべて水になっているのを確認する。彼女は一つうなずいてから深い深い呼吸をした。──今日も、また変わらない新しい一日が始まる。