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が、魔法使いの弟子になるということはすなわち、現代社会から切り離されてあえて不自由な生活をして、ひとつふたつの魔法を教わるのに何年もかかる面倒な世界に身を置くということだと。心構えができるまで、よくよく考えなさいと諭されてしまった。その時はリッコはまだアニメやゲームを楽しんでいたし、オートクッカーで作る料理の数々が美味しかったし、世話好きの母や自由尊重主義の父と一緒にいたかった。心構えなど程遠かったのだ。
「もうちょっとね、大人になったらまた考えるわ」
「あら、ギブアップはしないのね」
「だって魔法使いになりたいんだもん! あたし本気よ」
「あら……」
「ええと……」
「? 何?」
本気を告げたリッコを見て、師匠と弟子は言葉を濁して意味ありげに目を見交わした。何のことか分からなかったリッコは疑問符を投げたが、それについての回答は得られなかった。ただ、大人になったら色々話そうかと、それだけ。
最寄駅まで車両内を歩いたリッコはホームへ降りて改札を抜けた。駅からは明るい道を選んで遠回りしても歩いて十分ほどの距離だ。アパートまで帰り着くと彼女はオートクッカーに食材を放り込んで野菜スープのボタンを押してからシャワーを済ませた。浴室の自動洗浄機能が働いている間に洗濯を終わらせる。時間はかかるが、アイロンをかけたような仕上がりになる。すべてアパートに元々ついていた家電だ。これらのおかげで長時間残業してもまともな生活が送れている。