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三人が屋敷に侵入したのは交渉が始まってすぐのことだった。
最初は敷地をぐるりと囲っている塀を乗り越えるつもりだったが、ナナカが塀の上に光精の罠が仕掛けてあるのに気付いたため、それをやめて裏口から中へ入った。
──中へ入れた。
表玄関には使用人がいたが、裏口には人の気配も魔法の気配もなく、物理的な鍵さえ開けてしまえば何ということもなかった。
リッコからの事前情報によれば、すべての出入り口に人がいるはずだったのだ。
ナナカたちは違和感を覚えはしたが、時間に限りがあるため先へ進むことにした。
物理的な鍵は魔法ですぐに開錠できる。開錠の魔法はナナカが使うまでもなく、オードで十分だった。
屋敷に入ってからはオードが魔法の気配を探りつつハヤタが人の気配を気にしながら、ナナカが全体の統括をして先に進むというスタイルを取っていた。
一階には厨房や浴室など水回りの設備がずいぶんと大規模で敷設されていた。
他には応接間や食堂などもあった。あとは住み込みの使用人の部屋だ。
ナナカは時折、人物検知の魔法でリッコがいるかどうかの確認を行なっていたのだが、どうもどの部屋にも少しずつ彼女の気配が残っていて手掛かりにならなかった。
水鏡で情報交換した時のことを思い出すナナカ。
もっと内部のことを詳しく聞いておくのだったと後悔しても後の祭りだ。
「ソイの屋敷で間違いないのね?」
『ソイが自分の屋敷だって言ってたわ。中央北だとは思うけど、どことかは分かんない。屋敷の外に出たことないの。でも出れたとしても分かんないけどね。標識とかたぶん読めないし……』
「良いわよ。七老人の居住地ならすぐに調べられるわ。まあ侵入するような愚か者は私たちくらいだけど」
『危ないことしないでね』
──危ないこと、ね。
自嘲の微笑みを浮かべるナナカ。
危ない橋なんか、たった今、渡っているのだ。
「お師匠。一階にはいないと考えていいでしょう。
丁重に扱われていると言っていた。
おそらくリッコは客間をあてがわれているはず。
なら二階のどこかです」
「ナナカさん、交渉は第二段階に入ってるぜ。急ごう」
「分かったわ。すぐそこの階段から二階へ上がりましょう。
オード、手前の部屋から順に人物検知。
ハヤタさんは廊下に近付く者がないかそちらから見張って。
私は反対側から見張るわ」
手短に了承の意を返して二人が動き出す。
オードがすぐそばにあるドアに手の甲を向けて、音を立てずにノックした。
返ってくる気配はあまりにも薄くぼんやりとしていて、残り香にすぎないと一回で分かる。彼は首をふりふり言った。
「人のいない部屋ばかりですね」
「そんなに何人もお客を泊めないでしょ」
その時、ハヤタのひそひそ声が割り込んできた。
「……おい、声を潜めろ。まだ遠いけど向こうにメイドがいるぞ……」




