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いくらになるかと問われたジェスタは同席している大柄な壮年へ目線を向けた。
壮年は契約金の三割ほどの額を提示した。
スクリーンには映らない角度でジェスタが片眉を大きく引き上げた。
相場なら違約金は一割だ。
リッコ救出のための時間引き延ばし作戦の一環であろう。
一方、相場を知らない七老人は皆、苦虫を嚙み潰したような表情をしている。
協会として払えない額ではないが、長老は首を左右に振った。
「それはさすがに高すぎよう。何とか、まかりませんかの」
『お嫌ならば裁判にかけましょう。弁護士の準備はおありですか』
「ない。しかし我らもそちらの紹介した弁護士を採用するほどお人よしではないでな。
中央北に拠点を置く国際弁護士に話を通そう。
良いな? ソイ」
「分かりました」
長老とソイが相談して話を終えようとしていたところへジェスタは別の切り口で話を続けてきた。
『もし魔法使いのアドバイスなしでも我々がプロジェクトを継続した場合、あなた方はどうなさるおつもりでしょう。更なる妨害行動に出られるのですか』
「我らの助言なしでまともに動く魔法の杖を作ることは不可能であろうミスター。そこは心配しておらぬ」
『結構。ではリッコ──そちらで捕らわれている我が社の社員は戻していただきますぞ』
「構わぬと言いたいところだが、それは困るの。彼女はもう駆け出しとはいえ魔法使いのはしくれ。ソイの弟子になったはず。彼女の知識があればケイオンは完成してしまうかもしれぬ。そちらがプロジェクトを手放すというまで彼女を返すわけにはいかんの」
「ご存じでしたか……よく認めてくださいましたね」
「ふ。おぬしが納得の上でなら何も言うまいよ。七老人に弟子の一人もおらぬでは話にならぬからの」
テレビの中にいるジェスタと壮年は声をそろえて復唱した。
『『弟子? 魔法使いの?』』
『そういえば──』
『ジェスタ』
壮年が首を左右に振るとジェスタは言いかけた言葉を飲み込んだ。
その後で声を発したのは壮年のほうだ。
『リッコは魔法使いになったということでしょうか。
そうすると魔法協会に所属しなければならないわけですか。
それは義務ですか?
いや、そうだとしても彼女は中央北の魔法使いである前に極東の民であり、何よりも我が社の社員だ。
返していただけないのならばあなた方を拉致監禁の罪で国際警察に届け出しますが。
いかがでしょうか』
「警察にどうこうできる我らではない。好きにするが良い。
さて、確実にプロジェクトを放棄してもらおう、ミスター」
『なるほど。ならば確実に開発を止めるとお約束を。
証はケイオン専用工場の解体でよろしいでしょうか』
「うむ。それならば……」
「お待ちください長老。話に聞くところによれば」
ソイが再び会話に割り込もうとしたところで、急に会議室が騒がしくなった。
ドアが突然開き、三人組が大声を上げながらホールになだれ込んできたのだ。
「「リッコ!!」」
「ようやく見つけ!……た?」
「リッコ、会いたかっ……た……」
「……ああ……『どこ吹く風』の魔法か……やられた」
真っ先に飛び込んできた赤銅色の髪の青年。ソイは彼がハヤタだろうとあたりをつけた。彼は今は周囲をきょろきょろと見回している。
その後ろから室内に入って両腕を前に差し伸べたナナカは、その笑顔を曇らせて両手を下ろした。
オードは背後にドアが閉まる気配を感じながら、あお向けた顔の額に手のひらを当てて、ひとり冷静に呟いた。




