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リッコは懐かしくも鮮明な思い出に微笑みながら、本日の業務を終えて、社員証が鞄に入っているのを確認してから通用門を出た。門を潜る時に鳴る『ぴ』という音を彼女はちょっと気に入っている。
門から駅までは歩いて二十分くらいの距離だ。駅は線路を円形に敷くように敷設されていて、車両も円形に繋がっている。それが時計回りに少しずつ常時動いており、椅子席のあるオートウォークのように使われている。
それに乗って家に帰る。時刻はいつも二十二時半だ。使う時間は違うけれど、この車両には大学の時から乗っている。オンラインの授業を受けられるのは義務教育までなので、高校卒業と同時に街の大学に通える家に引っ越した。そのせいで魔法使いの家へ行く術を失ってしまったが、きっと昔よく使っていたあのトンネルに行けばまだ繋がっているはずだと信じている。だから。
「あと少しで、会いに行くからね……ナナカ」
始めは椅子に座っていたが、今日はまだ気力と体力に余裕がある。ゆっくり進む列車の中で乗客がそう多くないこともあり、リッコは進行方向へ歩くことにした。その間、ナナカのことをあれこれ思い出す。
そう言えば魔法使いの家に入り浸るようになってから一年は経った頃だったろうか。リッコより五つばかり年上の少年──オードが弟子に取られてやってきた。リッコはそれがうらやましくて、自分も弟子になりたいと駄々をこねたのだ。