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「精霊を召喚──呼んだら、一時間くらい色が変わるのよ。おうちの方がビックリされるから、目の色が元に戻るまでは帰らないほうが良いかも」
「ナナカの目は? 同じ?」
「同じよ。ほら」
身を屈めたナナカの青い瞳の縁取りがリッコと同じように真っ赤になっていた。綺麗だと思った瞬間に口から出ていた賛美の言葉はナナカを苦笑いさせる。
「あらあら、のん気ね。まあそれくらいのほうが良いのかもしれないわ」
それからナナカはリッコに少し眠るように言った。リッコはとてもではないが眠れる気分ではなく、始めの頃は否定していたが、ナナカが焚いたラベンダーの香を嗅ぐと、いつしかすやすやと寝入ってしまったのだった。
* * *
リッコが目を覚ましたのはそれからぴったり一時間後。ナナカの寝室のベッドの上で彼女に肩を揺らされたからだった。
「ん……おはよ……」
「はいおはよう。うん、目の色が元に戻ってるわ。そろそろ日が暮れるし、おうちに帰りなさいな」
「えー! せっかくナナカとお友だちになれたのに? もっと一緒にいたいいたい。だめ?」
「あら、お友だちだなんて、うれしいわ。でもそれならなおさら、今日はもう帰りなさい」
にこにこと深く笑いながら手のひらを重ね合わせた両手を口元へ持ち上げたナナカは心底うれしそうだった。が、帰るように促してくる彼女の態度は毅然としていて、リッコのどんなわがままも通用しなさそうだ。短いため息一つでベッドから降りたリッコは礼を言って出口を探した。ドアが一つと、戸の代わりに透けるカーテンが下げてある出入口が一つ。カーテンのほうへ手招きされて、そこをくぐるとリッコはナナカを心配げに見上げながら言った。
「ナナカ……また会えるよね?」