6-2
「──」
ああ。と、何となく納得した。
心配するなと言われた意味。
それは、まるで今この時、ナナカにふんわりと抱かれているような安心感を覚えたからだ。
目と口を閉じて耳を両手でふさいでいたが、そんなもの要らないのではないかと思えるほど、今リッコは穏やかだった。
行きと帰りで大違い。
これが術者の技量の差か──。
彼女がそっとまぶたを持ち上げる。
と、白い地にシャンパンピンクのマーブル模様が可愛らしい背景に囲まれて、自分とオードが直立している様子が何の問題もなく見て取れた。
二人の影だけ映っていない。
「な? 心配要らなかったろ?」
「うん……すごいわねナナカ。でもちょっと長──!?」
リッコは驚きのあまり硬直した。
その転送空間の背景に縦に切れ目が入ったのだ。
そしてそこから潜り込んできた手を彼女は避け損ねた。
そっと丁重にすくい取られた左手にわずかに力が込められる。
と、リッコはその切れ目から外に連れ出されてしまった。
そんなに強い力ではなかったのに──彼女は混乱して絶句した。
「横入り!? 誰だお前!」
オードの声が追いかけてきた。
が、ゆがんで隙間が空いている空間はすぐにこちら側から撫でられ、閉じられていく。
自分が置かれた状況がさっぱり分からないリッコだったが、このままでは極東に戻れなくなってしまうのだけは確かだと思い、必死でオードの名を呼んだ。
少しだけ残っている空間のゆがみに駆け寄って、なおも彼の名を呼び続ける。
そうしてゆがみがなくなる頃、リッコの肩に手が置かれた。
振り向いた彼女を見た、今度は彼が硬直する番だった。
丸みのある頬を濡らして、彼女は泣いていた。