6-1
「早く帰りましょオード。早く帰って──ナナカに会いたいの」
「慌てなくても師匠は逃げないぞ。急ぐと無駄が出るって言うだろ……ああでも、そろそろ良い時間か。じゃあ行くかな」
準備は済んでるか?
聞かれて深くうなずくリッコ。その後、自分の鼻をそっと触る。寝る前には治っていたがまた何かの弾みで血が出てこないとも限らない。が、今のところは危なげないので再度うなずいた。
リッコはここにくる時に使ったテープを求めてオードへ手を差し伸べたが、彼はそれへは首を振る。
リビングには大小様々な円陣が金の文字で描かれており、これを使うのだと示された。
座標はオードの極東での宿泊先に設定してあるから後は魔力を注ぎ込むだけだと教えられ、彼女はあわてて彼を引き留めた。
「待って待ってオード。まさか自力で跳べなんて言わないでしょ?」
「心配するな、師匠が敷いた転送陣だぞ? 動力さえ回せば制御は自動でやってくれる。自信持て」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だからそう心配するな」
「──分かった……」
杖の代わりに床へと魔力を流し込む。
すでにつかんだイメージとしては、バケツの中に入っている水を口の細い花瓶へ移すようなものだ。
細く細くできると魔力は素早く満遍なく対象物に巡っていく。一筋の円陣を構成している金文字が淡く発光したのを合図にリッコは陣の中央に歩み出た。