5-17
「毎日魔法漬けの生活よ。私は慣れてるけど、リッコは? よく考えてから決めてね」
『あのね、毎朝寝起きに精霊召喚の試みをしてたの。子どもの頃から、ずっとよ。だからそういうところは大丈夫だと思うの。問題は時代を逆行した生活よね』
「そうね。私だって電化製品を一式揃えるために魔法を一切使うなって言われたら迷うわ。だから言うのよ──よく考えてって」
『うん……そうする』
オレンジ色のリッコは水面の向こう側でひとつうなずいた。
* * *
グラスの水面に自分の顔が戻ってくると、それをオードに差し出す。
オードは既に別のグラスで同じレモネードを飲んでいて、それはリッコの分だと差し返された。
転移魔法の魔力消費量はかなりのものだ。
水鏡はさほどでもないが、それでも確実に魔力を削ってきているはずで、飲んでおいた方がいいと言われた。
魔力を回復するためにジュースを飲むのは生まれて初めてだ。
そう言えばナナカはオレンジジュースのストックを絶やさない人だった。
柑橘類なら何でもいいとのことだったので、リッコは自分の部屋でも何か常備しておこうかと思う。
彼女はグレープフルーツが好きなのだ。
グラスを傾けながらリッコはぐるりと辺りを見回した。
懐かしいナナカの家。
記憶の中にあるそれと何も変わらない。
杖を買いにきた時も室内は見ているはずだが、自分のことに必死だったリッコは周囲など見ていなかったのだ。
夜明けのティーカップの魔法に使っていた茶葉が大きな棚からすぐに見つかる。
──ここに来れたんだわ。
リッコは感慨にふけった。
その後ろから声がかかる。