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「正直、おれはもう独り立ちの時期がきてる。リッコが弟子になるなら師匠が干上がる心配もないし、いつでも譲れるぞ」
「あら。弟子のままでいたのは私の収入を気にしてのこと? 生意気言っちゃって」
ナナカがくすくす笑うと、オレンジの水面で片目をつむったオードが小さく舌を出した。
『ナナカ、あのね、あたし──」
「待ってリッコ。お金は協会に所属してコースに登録した者が支払うのよ。あなたこの国の住人じゃないのだし、無理に協会員になる必要はないわ」
『そういうもの?』
「いいんですか師匠?」
「ええ。本当は魔法使いになるのにお金なんか何の役にも立たない。それは真理なのよ」
ただ、以前にも言った通り、一年間は電化製品を抜きにした不便な生活を強いられる。
科学に特化して発展していった極東で生まれ育ったリッコには、彼女が想像するよりはるかにつらいだろう。
それをナナカは心配していた。
「魔法使いの世界って、のぞくのは簡単だけど、本格的に足を踏み入れるのは難しい世界だと思うわ。初日に師匠と魔力契約を交わして、後は一年間毎日鍛錬することを課せられるのよ」
またリッコのセリフが消えて、オードの声が聞こえてきた。
彼も柑橘系の飲み物をリッコと一緒に飲んでいる。
「電化製品を封印して、楽をしたきゃ早く魔法を使えるようになれってことだな。心配しなくても、おれが風邪で寝込んだ時なんかは師匠が魔法でぱぱっとチキンスープを作ってくれたよ」
リッコが物を考えている風情で、口元にゆるく握ったこぶしを当てて水面へ向き直った。