真相
少女は俺の推理を聞くと、ぐぬぬと眉間に皺を寄せた。
おそらく作っていた真相と違ったのだろう。これでも当然成り立つはずだ。文句はあるまい。
少女は はぁ、と溜息をついた。
「じゃあいいよ。正解で。」
投げやりに拍手してきた。
まあ当然だ。少女なりに真相を1つにしようと努力したつもりなのだろうが、俺からしたら知ったこっちゃない。
「じゃあおじさん、もう一個だけ条件加えていい?」
「ん?まあいいぞ。」
「田中を殺したのは佐藤じゃない。」
ほぇ?
とんでもないこと言いやがる。確か“謎“には「刺されて死んだ」と書いてあったはずだが?
「おいおい、まさか2回刺されたって言いたいのか?」
俺はようやく合点がいった。登場人物4人と書かれていた理由に。
「そういうこと。」
となると一気に謎は深まる。俺の推理でも田中は即死ではなかった。だから、田中が佐藤に刺されてからある程度行動してもおかしくはないと推理していたが、まさか、もう1人の登場人物に殺されていたとは。
いや、これは“こう“理解できる。
「佐藤と田中、そしてもう1人を鈴木としようか。この3人は屋上の同じ部屋にいたんだ。そして佐藤は田中を刺したけど、田中は生きていて、田中にとどめを刺したのは鈴木。鈴木は屋上→玄関→裏口へと移動。佐藤は屋上の部屋で室内から鍵をかけた。佐藤が田中を殺した犯人ではないのであれば、犯人は密室にいなかった、という条件もくぐれるよな。」
少女は再びぐぬぬ、と眉間に皺を寄せた。
どうやらこれも違ったらしい。
「もういい!」
少女は怒ってしまった。
少女はそそくさと帰り支度をして案の定金を払わずに帰って行った。
おいおい、答え言わないのかよ…。
少なくともこの“謎“には3つ正解があったという訳か。
もう1つの正解を考えてみる。
仮に全ての要素を使うとすればどうなるだろうか。
俺には1つ答えが見えた気がした。
この“謎“にはもう1つ密室があること。ここで定義されている密室の条件によると、警察到着時もう1つの密室は密室ではなくなっていること。
これは俺が考えた3つ目の真相だ。
佐藤は人を殺すのが大好きな猟奇殺人鬼田中に殺されそうになり、ナイフで田中を刺した。しかし、致命傷にはならず、田中は部屋(以下部屋A)から逃げ出し、佐藤は田中が戻って来るのを恐れて内側から鍵をかけた。鍵も所持しておりひとまず危険を回避して、警察に通報した。部屋Aは建物Aの屋上に当たる位置に存在し、屋上に積もった雪に足跡を残しながら田中は部屋Aの対角線に当たる部屋の扉を開け、そこから、階段で下って玄関まで降りた。その後殺人鬼田中は玄関から外に出て裏口にいる鈴木を殺しに向かって、足跡をつけた。建物Aの裏口と玄関とは壁で完全に分断されており、かつ、建物Aは窓、抜け道は存在しない。すなわち、裏口と、分断される壁の内側は、裏口のみを出入口とした密室である。田中は裏口から侵入するや否や、鍵を閉め鈴木の退路を絶ったが、負傷中の田中は鈴木に返り討ちを喰らってナイフで刺されて死亡した。鈴木はその後、鍵を開けて警察が来るのを待った。警察到着時、部屋Aは佐藤を残して密室のままであり、裏口は鍵がかかっていなかったので密室に犯人はいない。