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謎売りの少女  作者: 1:11
透明人間殺人事件
5/26

真相

 俺は“謎“を読み終えると溜息をついた。


全然ダメ。


確かにトリックは分からないが、それ以前に事件の状況が分からなすぎる。

店内の人間の数は?店内の出入り口の数は?凶器は今どこにあるの?

名探偵なら一瞬で把握できるような基礎的な情報が全くない。これで推理しろと言う方が無理がある。結局今の“オリジナル“はこのレベルなのだ。


「今日は帰らせてもらう。当然ハンバーグ代も払わない。」

「え?待ってよ!おじさん!なんで?」

少女は慌てて俺の上着の裾を掴む。

「話にならないからだよ。」

「答え分かったってこと?」


少女は泣きそうな顔で上目遣いでこちらを見てくる。俺はロリコンじゃないんだ。そんな攻撃効かないぞ。


「答えは分からない。でもそれは俺の頭が悪いのではなくこの“謎“が悪いということは間違いない。」


「ははーん。分からないから逃げるんだ。」


イラッとした。大人を舐めやがって。

「いいか。この“謎“には全てが不足してるんだ。犯人の逃走経路は田中が入ってきたドア以外にあるのか。凶器から指紋は取れないのか。刺された佐藤とはどう言う客で何人で来店していたのか。あれだけ見せられて推理しろ、だなんて無理に決まってる。」


少女はニヤリと笑った。

「おじさんってトレンド乗れてないね。“謎“ってこういうもんじゃん。不必要なところは全て切り落とされて要素だけが詰まった美味しいものだけ入ってるお子様ランチみたいなものだよ。」


「そのお前が不必要で切り捨てたところが必要なのだ、と言っているんだ。」

呆れた。この少女はどうせハンバーグ代も持っていないんだ。このまま食い逃げでもして捕まればいい。

今度こそ立ち去ろうとしたが、彼女の手が俺の裾から離れない。

「ええい、なんだ。分かった。これだけは解いていってやる。」

俺はそういうと、再び“謎“に向き合った。確かに少女の言うことは一理ある。“謎“とは名作から推理に必要な部分を切り取ったもので、不必要なミスリードの類はあまり使われない。だから“謎“とは駄作でくだらないのだ。今回の“謎“もこれだけの情報で解けてしまうと言うことになる。


「うーん。」

気づくと俺は腕を組んで声を漏らしていた。

「あはは、おやじくさーい。」

少女は満足げだった。

俺が帰るのを辞めたことに満足げなのか。こんなのも解けないのか、という意味で満足げなのかは分からないが、何となく後者に思えてイライラした。


「おじさん、これ例題だよ?」

「うるさい!」

「ヒントあげよっか。ハンバーグ代貰うけど。」

「うるさいと言ってるだろ!」


まず少女には敬語の使い方を教えなければならないだろう。


しかしまあ、この問題のおかしな点は明白である。店内に隠れる場所がないのに、店長と田中はそれを気づかずに話し続けていると言うところだ。田中が店に来てから1分しか経過していないが、その1分の間で店の外に出た可能性もあるが、“謎“には「その場で」話し続けたと書いてある。これはもしや、


「叙述トリックか?」

少女は「お〜!」と拍手した。

「正解だよ!」


田中の「ドアを開けて」というのは、田中が店内に入ってきて店長と話しているのかと思っていたが、店内から外に出て、外にいる店長と外で話していたと言うことだ。そしてその1分後店内で何者かに佐藤が刺されて殺した。即死のため悲鳴を出せず、店長と田中は気づかなかった。これが真相だ。


「思ったより面白いと思ってない?」

正直思った。“謎“という駄作をフリにした画期的なアイデアにすら思えたが、それでも叙述トリックを“謎“にしてしまうには欠陥が多すぎる。

「馬鹿言うな。これを許してしまったら何でもありになってしまうぞ。」

「何でもありにはならないよ。」

「A珈琲店がこの世に2つあって、1つでは殺人事件がもう1つでは田中と店長が会話していた、でも成り立つ。あるいは、日付こそ書いてあったが西暦は書いてない。田中と店長の話は2023年で、殺人事件が起きたのは2024年だとするとこれまた“謎“が解決してしまう。本来推理小説は真実は1つのはずだが、これでは無限に真実を作り出せてしまう。何より、この“謎“は事件自体は何のトリックもない。ナイフで刺しただけだ。しかも、警察が来たら犯人もすぐ分かるだろう。これは“謎“でもなければ推理小説としても成り立たない。」


少女は泣き出してしまった。5歳児のようだ。確かに言いすぎてしまったが、もう子供じゃないんだから。


「ごめんごめん。言いすぎた。良い“謎“だったと思う。制限を付けるとかどうかな?例えば“謎“以外の文章から要素を拾っては行けない、とか?」

「勝手にルール変えるなんてしていいの?」

「まぁ、いいんじゃないか?」


すぐに泣き止むところがおもちゃ買ってあげて泣き止む子供そっくりだ。


「じゃ、次までに考えてくる。明日の朝10時にまたここで。」

そう言うと少女はファミレスを去った。

おいおい!俺はまだ何も同意してないぞ。それにあいつ…ハンバーグ代払っていかなかったな。



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