透明人間殺人事件
昨日の大雨が嘘のように今日は晴れていた。
少女はその小顔と不釣り合いなど大きな黒縁の眼鏡をかけて俺の向かいの席に腰掛けていた。場所はファミレス。今から少女が俺に“謎“販売にあたりプレゼンテーションを行うらしい。俺はそのプレゼンテーションに心打たれたら“謎“を購入しなければならないらしい。半ば強引に決められた話だが、少女が“オリジナル“だ、と言うもんだから今の時代珍しいと思い、興味本位で話を聞くことにした。
「今の世間はねぇ、作者の思い通りになりたくない人が多すぎるんですよ。」
少女はハンバーグを丸々一つ、フォークで串刺しにして口に運んだ。口の周りはソースでベタベタになり、慌てて口の周りを自前のティッシュで拭いていた。
うわぁ。
正直ドン引きである。しかも少女はこれでハンバーグ3つ目だ。どれだけ腹すかしてるんだ。
少女は年齢は21らしいが、童顔なうえに言動全てが子供っぽい。悪い意味で年齢とギャップがある。こんな娘の“謎“、聞く価値あるのか?
大方、お金に困ってるから何の知識もなしに“謎“を売り始めたってところだろう。そして、ある疑問に行き着く。
「そのハンバーグ、お前が払うんだよな。」
少女はがっついていた手が急に止まる。
うわ、こいつまじか。
絶対俺に払わせる気だ。
「おじさんさ〜、もういい歳なんだから払ってくれてもいいじゃん!」
ムッ、とほっぺたを膨らませる。口には拭ききれてないデミグラスソースがついたままだが。
少女のようなタイプはある特定のマニアには刺さるのかもしれないが、生憎俺はロリコンじゃないんだ。
「いい加減にしてくれ。『“謎“のプレゼンをする』というから来てるのにさっきから食べては世間の推理小説に対する価値観の愚痴ばかりじゃないか。しかも、食べ物代は払えって?悪いが帰らせてもらう。」
「ちょっと、待ってよ。」
席を立とうとする俺に少女は片手を伸ばしてそれを阻もうとする。
「今から、今すぐに始めるから。お願い!」
仕方ないな。興味を持ってしまった俺にも少しは責任がある。買うかどうかは別としてプレゼンテーションくらいは聞いてやろう。
「すぐ始めろよ。」
少女は食べかけのハンバーグを一気に口の中に放り込んで、真っピンクのウサギのキャラクターのカバンから資料のようなものを取り出した。
食うのは後にしろよ…。
「説明するのが難しいからまずは例題を出そうと思う。私の“謎“は他の謎売りとは一味違うの。」
そう言って俺に渡してきたのは『透明人間殺人事件』とデカデカと記された2枚のA4サイズの紙だった。
1枚目は『透明人間殺人事件』とだけ書かれており、2枚目から所謂“謎“が始まった。