プロローグ
今宵は風が強かった。陽の光はすっかり西の海へと沈み、辺りは真っ暗で街灯の光でのみ足元を確認することを許された。この時期は夜になると、俺が唯一形を知っている星座のオリオン座がコチラを見下ろしてくる。しかし、今日は生憎の曇り空で風情のかけらもない夜空が今にも泣き出しそうにこちらを見ている。
「一雨来そうだな。」
嫌な冷たさを帯びた風が群れをなして大移動している。
「走るか。」
嫌な予感を感じ取った俺は走り出した。閑静な一本道を駅に向かって一直線に。抜いても抜いても並走してくる街路樹に嫌気が差す。さっさと電車で帰ろう。
俺の嫌な予感は的中した。ポツポツ雨が降り始めた。最初は小声だった雨さんも急に癇癪を起こして大声で叫び出した。
危ない。走り出すのが1秒でも遅かったらびしょ濡れだっ
た。
なんとか駅構内に滑り込んだ俺は、俺の直感を褒め称えた。駅周辺に賑わっていた人たちも、俺と同じように大雨から身を守るために駅構内へと続々と避難を始めた。
そんな中、駅のローターリーで1人ぽつんと、雨に打たれている少女がいた。少女は傘を持っているわけでもなく、真紅のハットに真紅のワンピースを着ていた。ワンピースは明らかにサイズが小さく、細くて長い綺麗な足が剥き出しになっているのが特徴的であった。少女が何か必死に呼びかけているのが僅かながらにここまで聞こえた。
「謎は要りませんか?」