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ウルダ(53)

「村の東から敵が入り込みました。数が馬30ぐらいです」


一人の男性が報告すると、サフィードはうなずいた。目撃者の情報をまとめると、敵の大部分は南から入り込んだ。そして比較的に防衛が薄い北側と東側、そして一番少ないのは西側だ。


けれど、暗殺部隊も考えられるから、油断してはいけない、と彼は思った。


「アミーン家はそのまま北側でがんばっている。西側と東側は留守番役の警備隊で、・・問題は南側か・・」


サフィードが考え込むと、ジェナルは武器を持って、現れて来た。


「村に残った女性と年寄りはもう安全な場所に移したよね?」

「はい」


ジェナルが聞くと、サフィードはうなずいた。


「南側はすでに戦いが起きている。誰かが、鉄砲を放つらしい、という報告を受けたぞ」

「ジャンでしょう」


サフィードが即答すると、ジェナルは嬉しそうにうなずいた。


「わしの孫がやはり強い」

「私の弟ですから」


サフィードはそう言いながら鉄砲を持って、うなずいた。二人がテントから出て行くと、すでに待機したタレーク家の部隊を見て、うなずいた。


ジェナルとサフィードが向かった先は村のオアシスの近くにある一番高い建物だ。その周辺に、村人が避難するための頑丈な建物もあった。しかし、ここまで敵が入り込めたら、一大事だ。その建物から、サフィードとジェナルが息を呑んだ。鉄砲で頭をぶっ飛ばされたタックス軍が見えた。


その技ができるのはジャンだけだ、とサフィードはザアードの言葉を思い出した。考えてみると、実に恐ろしい弟だ。かわいい顔して、殺し方は半端ない、とサフィードは思った。


再度考えてみたら、やはり恐ろしい4歳児だ。その4歳児の祖父は、隣に立っているジェナルだ。遠縁とはいえ、彼らは血が繋がっていることに違いない。やはり果物は木から遠くへ離れて落ちない物だ。暗殺者だったジェナルもそれなりに有名だったからだ。


サフィードは考えを改めて、周囲を見ている。そろそろ矢の攻撃範囲だ、と彼はそう思って、合図を出した。村中から無数の矢が放たれた瞬間、タックス軍が驚いて、引き返す人も出て来た。


けれど、次に来るのは鉄砲を持ったタレーク家の部隊が敵を向かい撃つ。


「閣下、東側が崩れております」


一人の男性が報告すると、サフィードはうなずいて、棟から東側を見ている。確かに崩れている様子だった。敵が村の中に入り込む様子が見えた。サフィードはジェナルに頭を下げてから、棟から降りて、素早く馬に乗って、数人の部下と一緒に村の東側を向かった。途中で見えて来た敵に向かって、サフィードは迷い無く剣を振り降ろした。その様子を見守ったジェナルは微笑んだ。


タレーク家はやはり素晴らしい、とジェナルは思った。見事な技で、迷いもなく敵を切り下ろしたサフィードはザイドにそっくりだ、とジェナルは思った。その攻撃は重く、剣の一振りだけでも相手の首が高く飛んでしまうほどの腕前だ。


サフィードに続いて、他の警備隊員らも東側から入った敵を激しく攻撃した。当然、タックス軍も諦めない。矢を使って、味方の前衛を盾にして攻撃する人もいた。二人の部下が敵の矢に当たると、サフィードは一旦物陰に隠れて、敵の数を見た。しかし、その数が実に多いため、サフィードたちは余儀なく後ろに下がった。


ザッシュ!ザッシュ!ザッシュ!


突然サフィードたちを狙った敵の一人の首が地面に落ちた。


「サラム!」

「無事か、兄さん?」

「ああ、助かったよ」


サフィードはうなずいて、再び前へ上がった。タックス軍の後衛はサラム班によってもうすでに全滅した。


「敵が中に入ったか?」

「中にいるかどうか確認していない。俺は、ここがやばかったと聞いたからだ。北側と西側は分からん」

「なるほど。じゃ、俺は北へ行くよ」

「分かった。が、行くなら、できれば南側を避けてくれ」

「どうして?」

「ジャンと鉄砲隊がいるから、流れ弾に当たってしまうよ」

「分かった」


サラムはうなずいて、外側から北へ馬を走らせた。


村の北側に到着したサラムはアミーン家の傭兵らに歓迎された。サラム班がしばらく村の北側で戦っている間にアミーン家に避難している女性らはサブリナと一緒に屋根の上から矢を放った。当たる人がいれば、まったく当たらない人もいる。けれど、女性らは手元の矢がなくなるまで襲って来たタックス軍に撃ち続けている。サラムは自分の妹を見て、思わず笑った。


ジャンのおかげだ、とサラムはそう思いながら再び剣を振り降ろした。





西側にいたのはアルマイド・アリフとその弟子たちだった。3人の弟子の中にはサマッド・タレークがいる。彼らに向かって剣と槍で攻撃している敵はサマッドの目に恐ろしく見えた。留守をしている住民らは流れ込んだタックス軍を激しく抵抗した。なんだかんだ、この村の半分以上、元暗殺者や傭兵ばかりだ。そのような激しい戦いに巻き込まれたアルマイドらも敵と激しく斬り合った。しかし、まだ何もできないサマッドは邪魔になった。アルマイドの指示でサマッドは急いで家の屋根の上に登って、避難した。けれど、サマッドはそのまま隠れて、震えた手で弓を握りしめただけだった。そんなサマッドの様子に気づいたアルマイドは、大きな声でサマッドを呼んだ。


「サマッド!・・おまえの叔父、あのジャンという男が、ナガレフで一人であいつらと戦った!そして、勝ったぞ!まだ幼い彼は、勇敢だった!おまえはどうなのか?!」


サマッドは瞬きながらその言葉を聞いた。そして立ち上がって、歯を食いしばって、勇気を出して、タックス軍に向かって矢を射た。接近して攻撃することは無理だけれど、遠距離ならできる、とサマッドは思った。そんなサマッドの隣に現れたのは数名の年をおいた女性らだった。彼女たちは持って来た矢と弓で果敢に敵を撃ち始めた。


「いてて・・」


一人の老婆は腰をさすって、座り込んだ。ぎっくり腰だそうだ、と一人の女性が言うと、老婆は苦笑いした。そして残りの矢をサマッドに渡した。サマッドはうなずいて、その矢を受け取った。


「サマッド様!」


タレーク家の応援が屋根の上に来ると、サマッドは嬉しそうにうなずいて、再び矢を射た。


「お父さんは無事か?」

「サフィード様なら無事でございます。今東側で戦っております」

「ジャン叔父さんは?」

「南で戦っております」


その言葉を聞いた瞬間、サマッドは瞬いた。南はもっとも激しく攻撃されていると聞いたからだ。しばらくすると、サマッドは再び敵に向かって、矢を射た。彼の元へタレーク家の第一部隊が全員西側に到着すると、戦火の(いきお)いが逆に傾いた。元々凄腕の暗殺者らで集められた部隊だから、あっという間に敵を滅ぼした。西側の防衛を指揮したアルマイド・アリフがタレーク家第一部隊の隊長にうなずくと、彼らは再び動き出した。


サマッドは彼らが向かった先を見て、無言で瞬いただけだった。そして一緒に戦った女性らと一緒にぎっくり腰していた老婆を支えながら、屋根の上から降りた。





南というよりか、タレーク家屋敷の一角で拠点を構えたジャンたちは、南の方面から攻めてくる敵を攻撃している。


「危ない!」


ザカリアは急いで持って来た盾でジャンと子どもたちを守った。矢を放った敵はすぐさま第二部隊の人々に斬り殺された。彼らの武器には毒が含まれているから、攻撃が当たるだけでも死に当たる致命傷になる。


「ご無事ですか?」

「問題ありません。ありがとう、ザカリアさん」


ジャンはうなずいて、彼の周りで手伝っているエマルと二人のエフラド家の子どもたちを見て、再び攻撃し続けた。


「エマルさん、弾。あと二人は疲れたら中で休んで下さい」


ジャンが言うと、エマルは急いで弾を5個ジャンに渡した。二人のエフラド家の子どもは首を振って、再び薬莢を拾い集めて、袋に入れた。ここから攻撃しても、敵がいるところまで矢が届かない。


「確かに、アリさんとカリムさんですよね」


ジャンが突然言うと、二人は「はい」と同時に答えた。


「撃ってみたい?」


突然そう聞かれると、二人は戸惑った。


「はい」


アリははっきりと答えた。カリムはただ黙って二人を見ているだけだった。


「じゃ、教えます。こちに来て」


ジャンが自分の位置をアリに譲った。そして、丁寧に教えた。


味方を避けて、敵だけを狙うように、とジャンはこと細かく指示した。簡単に聞こえているけれど、実はとても難しい。しかも鉄砲が大きかったから、アリは苦労した。


「敵は見えた?」

「うーん、はい」

「あのキラキラの飾りを身につけている人は敵の将軍です」

「はい、見えました」

「なら、撃って」

「へ?」

「撃ちなさい」

「はい!」


バーン!


緊張したからか、当たったのは敵の馬だった。


「もう一回、ちゃんと狙いなさい」

「はい!」

「撃って!」

「はい!」


アリは必死にまた撃った。今回はタックス軍の一人に当たったけれど、将軍ではない。


「もう一回!」

「はい!」

「撃って!」


ジャンの言葉通り、アリは必死に狙って、撃った。熱い弾丸が敵の鎧を貫いて、その将軍も横たわった。


「もう一回!」

「でもさっき当たったけど」

「本当に死ぬかどうか、分からないでしょう?」

「はい」

「だったら、もう一度狙って下さい。将軍が死んだら、敵の動きが乱れてしまうから、今が大事です」

「はい!撃ちます!」


アリが返事すると、ジャンはうなずいて部屋の中から水を届けにサルマンから水を受け取った。数発をがんばったアリの弾丸が相手の将軍に当たった瞬間、ジャンは微笑んだ。


「サルマンさん、中に入って。ここは危ないよ」

「私も叔父さんと一緒に戦いたい」

「なら、エマルさんとカリムさんに水を持って来てください」

「はい」


ジャンが言うと、サルマンは急いで中に入った。ジャンはもう一本の鉄砲を拾って、確認した。そして、弾を入れてから、エマルをやらした。エマルは緊張しながら、ジャンの指示を懸命に従った。水を持って来たサルマンが戻ってきた時に、エマルは首を振って、そのまま敵を撃った。未熟の腕だから、なるべく見える範囲の敵を撃つように、とジャンはそう言いながらエマルの水をザカリアに渡した。ジャン自身は近くにある鉢上木を引っ張ると、カリムとサルマンもせっせと手伝った。そしてまた鉄砲を取って、軽く確認してから弾を入れた、サルマンに渡した。


「撃つの?」

「はい」


ジャンはうなずいた。


「敵と味方はちゃんと見分けて下さい」

「はい」


サルマンは鉢植木の上に登りながらジャンの指示を真剣に聞いた。仲間を撃たないように、とくれぐれもジャンが言ってから、部屋の中に入った。


「あと一人ぐらい、鉄砲を実戦で習いたい人はいますか?」


ジャンの言葉を聞いた全員が固まった。


「私はやってみたい」


サイナが言うと、その部屋にいる全員がサイナに視線を移した。


「じゃ、サイナ姉さん、こちらに来てください」


サイナが外に出ると、ジャンは予備の鉄砲を取って、軽く確認してから弾を入れた。その鉄砲をサイナに差し出して、サイナに子どもたちと同じ高さになって、鉢植木に隠れて構えるように、とジャンは指示した。


サイナは言われた通りにした。


「なぜこのような体制に?」

「だって、そうしないと、逆に殺されてしまいますから」


サイナの質問に、ジャンは即答した。彼らが撃っている距離は確かに矢の直線距離と比べると長い。けれど、矢は角度によって、距離を伸ばすことが可能だ、とザカリアは思った。


「サイナ姉さん、狙いは見えますか?」

「馬に乗って、タックス軍?」

「そう。服装は分かりますか?」

「分かるわ」

「仲間じゃないことは確かで、近くに味方がいないなら、撃ってみてください」

「引き金を引けば良いの?」

「はい」

「じゃ、撃つわ」


サイナは狙いを定めて、撃った。そして遠くにいるタックス軍がそのまま馬から落ちて、びくっと動かなかった。


「サイナ姉さん、すごい!一発で命中したなんて、すごいです!その調子です!」

「はい!」


ジャンが褒めると、サイナはとても嬉しそうだった。ジャンは部屋の中にまた入って、三人を手伝うように言うと、エフラド家の子どもたちが手を挙げて、近づいた。彼らの仕事はカリムと同じく、落ちた薬莢を拾って、サイナたちに弾を差し出す。


「ザカリアさん」

「はい」

「その盾は他の護衛は持っていますか?」

「衛兵なら持っています」

「なら、衛兵の中に、ザカリアさんにとって信用できる人を二人か三人ぐらい欲しい。彼らを矢から守るためです」

「ですが、この部屋はサイナ様の部屋なので、許可が必要でございます」


ザカリアが言うと、サイナはあっさりと「許可する」と答えた。ザカリアはうなずいて、外にいる衛兵に言いに行った。


盾を持っている三人の衛兵が入ると、ジャンは彼らに指示を与えた。衛兵らはうなずいて、サイナたちを囲むように盾で守っている。そしてジャンは残りの鉄砲を持って、確認した。弾を入れてから、まとめて袋に入れて、腰に付けた。


「ザカリアさん」

「はい」

「上に行きましょう」

「かしこまりました」


ザカリアはうなずいた。ジャンはサイナたちを見て、そのままベランダから一飛びでサイナの部屋の上に飛び込んだ。そこには数人のタレーク家の特殊部隊がいる。ジャンは周囲を見て、ザカリアと話し合った。ザカリアがうなずいて、屋根の上にいる彼らに話し合った。ジャンは屋根の上に座って、集中した。


突然風が吹いた。とても強い風で、ジャンが座っている建物の上から村の外へ向かって吹いていた。その風で、ザカリアたちが驚いた。けれど、ジャンは何もなかったかのように、そのまま鉄砲を構えた。そして、そのまま撃った。


遠くにいる誰か(・・)に当たった。


けれど、ザカリアたちはその誰かは分からない。目では見えないほど、遠い。


「あの、ジャン様?」

「はい」

「誰を撃ったのですか?」


ザカリアが我慢できずに、聞いた。


「新しい敵です」


ジャンはまた狙いを定めてから再び撃った。やはり屋根の上から、それらの()が見えなかった。


「また来るのですか?」

「はい」


ジャンは答えながらまた撃った。


「数が少ないけど、彼らは強いと思います。なので、少しでも減らさないといけません」

「私どもが、彼らが見えませんが・・」

「あ、そうか」


ジャンは気づいた。


「スコープがないと、見えにくいですね」


ジャンは自分の鉄砲をザカリアに差し出した。ザカリアはジャンの言葉通り、スコープを覗いた。


「タックス軍特殊部隊だ」


ザカリアはそう言いながら、手で合図を出した。すると、屋根の上にいる男性の一人がザカリアに近づいて、スコープを覗いた。


「本当だ」


その人がしばらくスコープを見て、考え込んだ。


「数が20、すでに二人は死亡した」


彼は息を呑んだ。


「その他には撃つことができますか?」


彼は鉄砲を帰して、尋ねた。


「はい」


ジャンはその鉄砲を受け取って、再び構えた。そしてまた連続して撃って、腰にぶら下がった袋から弾を取り出して再びボルトアクションを引いた。そしてまた連続して撃った。


「うーん」

「どうかなさいましたか?」

「二人は行方不明かも」

「と言いますと?」

「数が合わないからです。彼らは全員22人で、10人撃ったから、残りは12人になるはずなんだけど、10人しかいません」


ジャンはまた弾を入れて、ボルトアクションを引いて、構えた。連発して撃ったあと、また急いで弾を入れて、撃った。


「やはりいません。注意した方が良いかもしれません」


ジャンは考え込んだ。


「私どもはタレーク家、特殊部隊、第一部隊、隊長でございます。彼らのことをお任せくださいませ」


一人の男性はジャンの前に、丁寧に言った。


「はい」


ジャンはうなずいた。


「彼らの特徴は分かりますか?」

「先ほど見た者なら、記憶しております」

「はい・・、あ、もう一つ、気づくかどうか分かりませんが、一人が左利きで、もう一人は顔に傷跡がありました」


ジャンが言うと、彼は驚いた。そして無言でうなずいて、丁寧に頭を下げてから、彼の部隊に合図を出した。すると、彼らは屋根の上から降りてどこかへ行った。


「それで良いのかな・・」

「十分でございます」


ジャンが言うと、ザカリアは微笑みながら答えた。


「ジャン様はとても素晴らしい方です」

「ん?」


ジャンが首を傾げた。


「良く分かりません」


ジャンはそう言いながら、もうすでにバラバラになっている敵を見ている。鉄砲の前では、突っ込んでいること自体が自殺行為だ。そのような哀れなタックス軍は、ジャンはただ見ているだけだった。この戦いはすぐに終わるだろう、とジャンは思った。


「ザカリアさん」

「はい」


しばらく見てから、ジャンは隣にいるザカリアに声をかけた。


「おなかが空いた・・」


その言葉を聞いたザカリアは思わず微笑んだ。そして、ジャンをそのまま下へ連れて行った。



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