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闇のジャン  作者: ブリガンティア


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48/62

ウルダ(48)

ザアードの言葉を聞いて、ジャヒールたちは耳を疑った。サラムはサマンを見て、微笑みながら、サマンの肩をポンポンと軽く叩いてから、武器を持って、そのまま外へ出て行った。ザアードは入った来た男性にうなずいてから、再びジャヒールの近くに座った。その男性が頭を下げてから、再び外へ出て、扉を閉じた。


「サマンの毒からあの毒が出たというのは、本当か?」

「調べた医者はそう言った。良かったことに、まだ未開封だったから、難を逃れたな」


ザアードは微笑みながら答えた。サマンはうなずいて、自分の首を思わず触った。


「そういえば、サマンが毒に対する知識があまりないのも幸いだった。でないと、今頃拷問を受けてしまうからな」

「先生、冗談を言わないで下さい」


ジャヒールが言うと、サマンは首を振った。噂では、タレーク家の拷問は大変厳しいらしい。下手したら、生きて帰らないだろう、とサマンは思った。


「これからは毒について、まじめに勉強するんだ」

「はい」


ジャヒールが言うと、サマンはうなずいた。


「もう中身が分からない毒など、そのような適当な物を買わないことだ。もらっても、身元が分からない人からだと、疑った方が良い」

「はい」


ザアードが言うと、サマンはうなずいた。


「恐らく、彼らは前々からこのことを計画しただろう。お金の余裕がないサマンを見て、利用しようとしただろう」

「ひどい・・」

「裏の世界は、そんなもんは普通だよ」


ジャヒールははっきりと言った。


「言っておくが、良い毒が、最低でも金貨50枚ぐらいがかかる」


ザアードははっきりと言った。


「だから金貨1枚の価格を聞いた瞬間、何かの間違いか、と思った」

「アルカリームさんは、身内がいない俺を優しく接触してくれて、家族のような感じだった・・。たまに食べ物を恵んだりして、任務の度に、無料で毒をくれたり、砂漠の蛇を捕まえる方法を教えたりしてくれたりします」

「優しく接触することで、おまえの警戒心を和らげることができる。それに世間話や行き先も聞ける。情報を探り出すには持って来い方法だ」

「ひどい・・」


ジャヒールが説明すると、サマンは落ち込んでしまった。


「アルカリームという人は、本当に無実かどうか、これから分かる。ただ一つ確かなのは、ゴルダ砂漠のサソリは一般的に出回っていない。あれは王家御用達の毒、または王家と関係する人達にしか扱うことが許されている」

「へ?」

「だから、この時点で、恐らく、アルカリームは犯人の一人だと考えても良い」


ザアードが言うと、サマンはただ瞬いただけだった。


「それほど、貴重な毒だからね」


ジャヒールはうなずきながら言った。


「アルカリームさんが他の人からもらった、という可能性はありませんか?」


アミールが聞くと、ジャヒールは考え込んだ。


「そのような可能性がないわけではないが、可能性的には、非情に小さい。だが、本当にその毒が他所からもらった場合、間違いなく、これはウルダに対する戦争に捕らえている。タックス王家が正式に加入した、ということになっているからだ。今までのタックス側からの攻撃はただの水が欲しいからならず者(・・・・)が勝手にやっていることだ、と言い訳ができるからね」

「一つ言っておくが、どの暗殺者でも、その毒が欲しくて、喉から手が出るほどの一級品だ。猛毒だけではなく、その毒は無味で無臭、しかも透明でさらさら毒だ。一度使用したら、内蔵に付着して腐らせることができる。じわじわと相手を殺すことができる毒で、気づいた時にもう手遅れ、非情にたちが悪い毒だ」


ジャヒールが言うと、ザアードはうなずいて、説明を足した。


「解毒は可能ですか?」


サバッダが聞くと、ザアードはしばらく考え込んだ。


「今のタレーク家では、その毒に効く解毒がないのは現実だ。が、ジャザル家にはその毒に効く解毒を所有している」

「じゃ、ジャンは大丈夫なんですね?」

「多分」


アブが聞くと、ザアードは即答した。


「が、ここに問題がある」


ザアードはため息ついた。


「ジャンはすでに毒に蝕まれている状態だ。イスハックの毒の中に、エクレ花が入っていて、未だにまだ解毒が済んでいない」

「ということは、今まである解毒剤が、今度のサソリの毒の解毒剤と、うまく効くかどうか、ということか・・」


ジャヒールはそう言いながら考え込んだ。


「そういうことだ」


ザアードはグラスを取って、その中身を飲み干した。


「先生、解毒剤って、毒だよね?」

「そうだ」


アブが聞くと、ジャヒールはうなずいた。


「入ってきた毒と解毒剤を体内に戦わせることで、互いを消滅するんだ。毒に対する耐性があれば、効き目が良くなる」


ジャヒールが説明すると、アブとサマンはうなずいた。


「先生、逆に言うと、サマンのような人が、もしもそのエクレ花の毒だとか、ゴルダ砂漠のサソリの毒にかかってしまったら、大変なことになりますか?」

「それはそうだ」


アブが聞くと、ジャヒールは即答した。


「いくら私の解毒剤を飲んでも、あの二つの毒は特殊だ。かかった人は、ちゃんと解毒剤を与えないと、ほとんど失敗して、一ヶ月間苦しんだ後、死ぬ」

「・・・」


ジャヒールが言うと、サバッダたち全員が険しい顔になった。


「ジャンは、・・耐えられるのですか?」


アブが震えた声で聞くと、ジャヒールはだんまり込んだ。ザアードも天井を見て、考え込んだ。


「分からない」


しばらく沈黙の後、ジャヒールは言った。


「ジャンが血を吐いたということは、内臓がすでにその毒にやられた可能性がある」

「先生・・」

「だから、医者たちに任せるしかない。人を殺すことがしかできない私たちは、解毒を与えることしかできない」


ジャヒールが言うと、サバッダたちは無言でうつむいた。


「裏の知識も、医者の知識も勉強したい」


アブが言うと、全員アブを見ている。


「医者の勉強は大変だよ?」


アミールが言うと、サバッダもうなずいた。


「でも、やはり必要だと思う。医者の知識があれば、裏の世界にも役立つだろう」


アブが言うと、ジャヒールは考え込んだ。


「タレーク家の医者は特殊訓練を受けた人々だ。勉強したいなら、本を貸しても良いよ?」


ザアードが言うと、アブはうなずいた。


「お願いします」

「分かった。ここから出られるようになったら、サバッダにその本を渡す。同じ本が数冊もあるから、卒業するまでゆっくりと読んでも構わない」


ザアードが言うと、アブは嬉しそうに頭を下げた。


「卒業したら、ぜひタレーク家に来てください」

「考えてみます」


アブは大きな笑みを見せながら答えた。


「アミールさんも裏希望?」

「はい」


ザアードが聞くと、アミールはうなずいた。


「父と一緒に仕事をしたいので」

「なるほど」


ザアードは微笑んだ。


「サバッダ(にい)の兄さんはとても優しいよね」


アブが言うと、サバッダとザアードは揃って笑った。


「サバッダはなんだかんだ、俺の息子と4歳しか違わない。サルファラズは12で、サリムは10。サバッダは今年16だろう?来年成人だと思う」

「はい」


サバッダはうなずいた。


「年の差がすごかったね」

「まぁ、長男と六男だからな。細かく言うと、サバッダは7人目の子どもだからね」

「それは仕方ないね」


ザアードが言うと、ジャヒールは笑った。自分もいつかたくさんの子どもに恵まれたい、と思った。


「アブの場合、全員が何人いる?」

「何人だろう・・」


ジャヒールが聞くと、アブは考え込んだ。


「第一夫人は3人、母は()6人、第三夫人は今のところ(・・・・・)5人、その中に双子が二組がいる・・、合計14人?」

「大変だ・・」


ジャヒールが言うと、アブは笑っただけだった。これからまた増えそう、とアブが言うと、ザアードとジャヒールは笑っただけだった。


「兄弟は多いほうが賑やかで良い。私みたいな一人子だと、寂しいよ」


ジャヒールが言うと、ザアードは思わず視線を移した。


「一人子だったか」

「はい」


ジャヒールはうなずいた。


「アスラン家は、私以外、もうこの世にいない。父が私が2歳の時に亡くなって、母はあれから再婚せずに、二年前に他界した」

「親戚は?」

「全員死んだ。毒殺された」

「復讐はしたか?」

「もちろんだ」

「そうか」


ジャヒールが言うと、ザアードはうなずいた。


「流れ流れに、ここに流れ着いたか?」

「母親がマグラフ村出身なんで、二人でここに移住した。病気だったから、俺は仕事を休業して、なるべく母の近くにいるようにした。看病して、しばらくしたら彼女が亡くなった。が、とても穏やかな顔で、それで良かったと思った」

「なるほど。そういえば、小頭は、結婚はいつ?」

「アシャさんはお悔やみの期間を終えたら、結婚する予定だ」


ジャヒールは微笑みながら言った。ザアードはその意味を理解した。


アシャ・ジャザルは未亡人だ。というよりも、結婚した日に、彼女の夫が死んでしまった。原因は暴れた馬から落ちて、そのまま踏まれて死亡してしまった。結婚披露宴がキャンセルされたけれど、結婚式が正式に行われたものの、夫の実家に行かないまま、そのまま未亡人になってしまった。夫の家族も、縁起が悪いと思い、結局同じ日にそのまま離縁を申し込んだ。


結婚と離縁が同じ日で行われてしまった。そのことは人々の間に噂が広がって、結局誰一人もジェナルの前でアシャのことを話す人がいなくなった。


その一ヶ月後に、ジェナルの部下だったジャヒールが現れた。以前数回かジェナルと一緒に仕事をしていたけれど、仕事以外の会話はほとんどなかった。そして、ジャヒールは病気になった母親を看病するために数年前から、ずっと休業した。彼は今、先生として生活をしている。4人の弟子を持っていて、意外と評判がとても良かった、とジェナルはジャヒールのことを知り合いから聞いた。その後、ジャヒールと会話したジェナルはすぐに彼を気に入った。ジェナルは、ジャヒールがアシャと結婚する代わりに、小頭として役職を与える、と約束した。その決定に驚いた人が多かったけれど、理解する人も多数いる。


アシャはジェナルの愛娘だからだ。


「ということは、もうすぐだね」

「そうだな。そろそろ準備を整えないと、また先延ばしてしまう」


ジャヒールはまじめな顔で言った。


「結婚予定は村を移動する前か?」

「そうしたいのが山々だけど」

「何が問題でもあったのか?」

「この間の襲撃やジャンの毒殺未遂事件などで、頭がいっぱいで・・、ザアードさんが聞くまで、結婚のことなんて、忘れてしまったよ」


ジャヒールが言うと、ザアードは苦笑いした。


「ジャンはまだ小さいが、彼は恐らくサバッダよりもたくさんと毒を飲んだだろう」


ザアードは自分のグラスを取って、水を注いだ。


「だが、体が小さいから、耐えられるかどうか、正直にいうと、分からない。分からないが、ジャンはきっとエクレ花の毒とサソリの毒を乗り越えられると信じる」

「万が一、ジャンが耐えられず、死んでしまったら?」

「ジャンが死んでしまったら、俺はイルシャード家全員を殺さなければならない。そしてそのサソリの毒を提供したタックス王家も、全員、殺す」


ザアードは水を飲んでから、ゆっくりと言った。それを聞いた瞬間、ジャヒールたちの顔が険しくなった。


殺気も出さずに殺せる人だ、とジャヒールは思った。危険極まりない男だ、と。


「それも失敗に終わったら?」

「俺が失敗したら、その役目がサラムやサヒムに降りかかるだろう」

「なら、ジャンが生きてもらわないと大変なことになる」

「俺もそう願う。神は信じないが、祈りたい気分だ」

「私もそうだ」


ジャヒールが言うと、ザアードは微笑んだ。


「さて、少し休んで来る。連絡が来たら、起こしてくれ」

「分かった」


ザアードは立ち上がって、開いている部屋に入って、扉を閉めた。



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