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ウルダ(46)

「先生、ジャンは?」


サバッダが座っているジャヒールに尋ねると、ジャヒールは首を振った。


「分からん。起こしても起きなかったらしい、と聞いた。医者は意識不明だと言ったが、今ジャザル家の医者がジャンを診ているところだ。彼は一番毒に詳しい人だそうだ」


ジャヒールはそう答えながらジャンの部屋の扉を見つめている。連絡を受けたサラムも現れて、無言で扉を見ている。許可がないと、中に入れないからだ。部屋の中にはザイドとザアード、そして医者たちがいる。


「サバッダ、ジャンはどうした?」

「意識不明だと医者が言っている。今ジャザル家の毒に詳しい先生が診ているそうで」


サバッダが答えると、サラムの顔は険しくなった。


「そもそもなぜいきなり意識不明になったか、その原因は何だ?」

「多分お昼の後、医者が飲ませた薬と関係あるかもしれない」


サラムの疑問に、ジャヒールが答えた。


「薬?」

「医者は栄養剤と言ったが、昼ご飯の後のサバッダの話から聞くと、どうも薬らしい。遊んでいる間に、急に眠くなって、そのまま眠ったらしい」

「その医者の名前は?」

「タリブ先生だ」


ジャヒールが答えると、サラムはうなずいた。


「まだ殺すなよ」

「なぜそう思う?」

「サラムさんは分かりやすく顔に描いているからだ」


ジャヒールは呆れた様子で言った。


「役に立たない医者はいらない」


サラムが言うと、ジャヒールは苦笑いした。


「あの医者は、ジャンの体内で毒と毒が喧嘩していることを把握仕切れなかっただろう。だからジャンのために、一番良い栄養剤を与えたわけだ。私はその場にいたから、医者がジャンに栄養剤を飲ましたことを目撃した。が、どういう訳か、その栄養剤の中に眠り薬が入っている」

「眠り薬か」

「可能性はいくつかある。一つ、栄養剤の中に眠り薬が入った時に、患者を眠らせて、体を回復させるという考えがある。二つ、調合している時に、間違った入れた。そして三つ、行為で入れて、ジャンをなんとかしようということだ」

「二つ目と三つ目を犯したら、俺があいつの首を斬る」


サラムが言うと、ジャヒールはため息ついた。


「逆に尋ねたいが、ジャンを殺したい奴っているのか?」


ジャヒールが聞くと、サラムは考え込んだ。


「イスハック・イルシャードは死んだ。彼の親と妻子も死んだよな?」

「そうだよ。今回はちゃんと私が彼らの葬儀を見届けた。だから、確実に死んだと分かった」


ジャヒールが言うと、サラムはうなずいた。


「他のイルシャード家は?」

「第一夫人の子どもであるアバス・イルシャードは、他のイルシャード家と仲が良いとは言えない。第一夫人が亡くなった後、第二夫人がやりたい放題だ。噂だと、第一夫人が毒殺されたらしい」

「第二夫人にか?」

「そうだ。だが、証拠はない。だからアバス・イルシャードは第一夫人が亡くなった後、母親の故郷に行って、向こうで仕事していた」

「なるほど」

「それに、第三夫人は息子を失って、頭がおかしくなった、という話は聞いたか?」

「いや、聞いていない。第三夫人の息子って、あの三男だよね?」

「そうだ」


サマリナと結婚する予定だったのは三男だ、とジャヒールはうなずいた。


「頭がおかしくなったから、第二夫人によって彼女が暴れないように、日頃精神安定剤入りの食事を食べさせられて、監禁された。その精神安定剤は恐らく毒だろう。アバス・イルシャードが来た時に、彼女を監禁された地下から解放した」

「ふむ」


サラムは考え込んだ。


「アバス・イルシャードはなぜマグラフ村に戻った?」

「連絡を受けた。父親からだ」

「ふむ」


サラムは考え込んだ。


「私が思うんだが、タックスはなぜイスハック・イルシャードを優遇したか、きっとこちら側のスパイが欲しかっただろう、と」

「確かに、暗殺者としてパッとしない彼をかなり優遇したようだ。船や騎馬隊を与えるぐらいだ。ただのネズミじゃなさそうだった」


サラムは考え込んだ。


「ナガレフ村で、ジャンの働きによって、村人が解放されて、村で残ったタックス軍を殺した」

「それで、タックス軍はジャンの存在を知って、イスハックに近づいたとか?」

「私はそう思う。だが、真実はどうなのか、分からん」

「ふむ」

「聞いた話だと、イスハックは数回も仕事を失敗したらしい。この半年の間に、依頼者が一人もいなかった」

「あの程度の腕だったからな」


サラムが言うと、ジャヒールはうなずいた。4歳児に負けた暗殺者だから、彼の腕はやはり悪かっただろう、とジャヒールは思った。


「だからタックスが彼に近づいただろう。どんなルートで近づいたか、よく分からないがな」

「ということは、彼はタックスにいろいろと喋った可能性があるね」

「私はそう思う」


ジャヒールはうなずいた。


「タックスに入る必要がある」

「単独行動はとても危険だぞ?」

「あとで父さんと話し合う」


サラムがため息ついて、扉を見つめている。


「今の俺が、ジャンが無事かどうか、気になって仕方がない」


サラムの言葉を聞いたジャヒールは一瞬驚いて、サラムを見ている。


「おまえは変わったな、サラムさん」


ジャヒールが言うと、サラムは思わず苦笑いした。図星かもしれない、と否定しないサラムを見ると、ジャヒールは思わず微笑んだ。


「そうかもしれない」


サラムが短く答えて、開いた扉を見ている。ザアードが出て、まっすぐに二人の前に向かった。


「ジャンは?」

「無事だ」


ジャヒールが聞くと、ザアードは答えた。


「しばらく安静しなければならないが、・・絶対安静だ」

「なぜそうなったか、その原因が分かったのか?」

「ゴルダ砂漠のサソリの毒だ」


ザアードはため息ついた。


「その毒は、イスハックの毒に含まれたのか?」

「いや」


ザアードは首を振った。


「タリブという医者は毒を混ぜることを否定した。イブラヒムは護衛で、仕事中に武器や毒を持っていなかった。小頭は?」

「私は武器と毒瓶を持って来た。「アラナの微笑み」で、ゴルダ砂漠のサソリの毒を含まれていない。念のため、調べても良い」


ジャヒールははっきりと答えて、ポケットから毒瓶をザアードに渡した。


「サバッダは?」

「僕は武器と毒瓶を持っていた。毒は「夜明け」で、ゴルダ砂漠のサソリの毒が含まれていないと思う。念のため、調べてください」


サバッダは毒瓶をザアードに渡した。


「アミールさんは?」

「イグラの瞳、ゴルダ砂漠のサソリの毒が入っているかどうか、不明だ。父がくれた物で、調べても良い」

「分かった」


アミールが毒瓶を渡すと、ザアードはうなずいて、受け取った。


「アブさんは?」

「俺は「クジャク星」を使っている。多分ゴルダ砂漠のサソリの毒が入っていないと思うけど、調べてください」

「分かった」


アブも毒瓶を渡すと、ザアードはうなずいて、受け取った。


「サマンさんは?」

「俺は市場で売っている一番安い「闇の誘い」を使っている。作った人はラベルに載っている。買うのはアスビーに行く前だったから、まだ封も開けていない」


サマンが毒瓶をザアードに渡すと、ザアードはラベルを読んだ。


「聞いたことはない毒だ。しばらく預かる」


ザアードが言うと、サマンはうなずいた。


「この毒の前に、何を使った?」

「この近くで見つけた蛇から取った毒です」


サラムが小さな声で言うと、ザアードはしばらく彼を見ている。元奴隷で、お金があまりないと聞いたけれど、そこまでちゃんとした毒を身につけていないとは・・、とザアードは思った。


「しばらく預かる」


ザアードが言うと、サマンはうなずいた。


「サラム、おまえの毒は?」

「俺が今日まだジャンと会ってないけど?」

「念のためだ」


ザアードが言うと、サラムは懐から毒瓶を出した。


「女神の瞳だ」


猛毒中の猛毒だ、とザアードとジャヒールは思った。


「預かるよ」

「分かった」


サラムはうなずいた。


「念のため、あの医者を含めて、本日、小頭やサバッダたち、そしてサラムは特別棟に居てもらう。お頭と父さんはこの話を承認した」

「分かった」

「俺も本日特別棟に泊まる。俺の毒は「漆黒の女神」だ」


ザアードは自分の毒瓶を懐から出して、集まった毒瓶の袋に入れた。ジャヒールはその名前を聞いた瞬間、固まった。その毒が一滴でも村全体即死になるほど、最上級の毒だ。


「これらの毒を調べろ」

「かしこまりました」


ザアードと一緒にいるザイドの部下はうなずいて、毒瓶を受け取った。


「では、案内する。夕飯は食べたのか?」

「食べたよ」

「分かった」


ジャヒールが答えると、ザアードはうなずいた。サバッダたちも食べたと返事した。サラムは食事がまだだ、と答えた。


彼らはその棟から離れて、しばらく長い廊下を歩いた。誰一人も会話する人がいなかった。


「ここだ」


ザアードは合図を出すと、その棟の前に立っている衛兵が扉を開けた。ザアードが入ると、ジャヒールたちも入った。問題の医者はいない。別の入り口から入る、と説明を受けた。彼らが全員入ると、扉が外から締められて、鍵も外からかけられた。


「部屋はいくつかある。好きなところでしばらくここで生活してくれ」

「俺は忙しいんだけど」


サラムはため息ついた。


「おまえは野放しできないと判断した。だからここでおとなしくしてくれ」

「ジャンを殺そうとした奴らは外にいるというのに?」

「父さんとお頭の命令だ」


ザアードはそう言いながら、もうすでに大間の中心に料理と飲み物が用意されていた。


「毒はない。料理をしたのは俺の部下たちだ。小頭もどうぞ」


ザアードは飲み物をとって、ゴックンゴックンと飲んだ。ジャヒールも座って、少し飲んだ。


毒はない、と彼はうなずいた。


「俺は食べるよ。腹ぺこだ」

「どうぞ」


サラムが言うと、ザアードは座りながらため息ついた。


「ジャンはどんな様子だった?」


ジャヒールが尋ねると、ザアードはしばらくだんまり込んだ。


「血を吐いた」


しばらく沈黙の後、ザアードは言った。サバッダたちの顔が険しくなった。サラムは無表情で食べ続けている。


「見つけたのは、やはりイブラヒムだった?」

「ああ」


サバッダが聞くと、ザアードはうなずいた。


「様子が変だったから、イブラヒムは外にいる使用人に医者を呼ぶように、と命じた。それで医者が来たが、ジャンを起こせなくて、父さんに連絡した」

「その医者はタリブ?」

「ああ。今日の担当はタリブだったから、彼が朝から夜まで、ジャンを診ている医者だ。彼の他にはアスワン、タヒール、そしてワリド、という医者らがいる。アスワンは解毒を作るために別の棟で集中してもらっている。タヒールは夜から朝まで仕事するから、昼間はここにいない。ワリドは今日兵士らの担当だから、本館にいなかった」


ザアードは大きな肉塊を皿に移して、食べ始めた。


「おまえらも食べても良いよ」


ジャヒールが言うと、サバッダたちはうなずいた。アブとサラムは皿を持って、料理を少しずつ盛った。


「使用人らも調べられる対象に?」

「当然だ」


ジャヒールが聞くと、ザアードはうなずいた。


「ジャザル家の医者がジャンを診て、毒がまだ全身に回っていないと言った。今日は何をして、何を食べて、何を飲んだ、すべて調べた。ジャンと接触した使用人も、料理人も、衛兵も、護衛も、一つも抜かりなく調べる対象になった」

「ふむ」


ザアードの話を聞いたジャヒールは考え込んだ。


「ウードの先生も?」

「もちろんだ」


サバッダが聞くと、ザアードはうなずいた。


「先生、ゴルダ砂漠は、タックスにある砂漠ですか?」


アミールが聞くと、ジャヒールはうなずいた。


「ゴルダ砂漠は西にある大きな砂漠だ。その砂漠のど真ん中に、サソリの谷という場所がある。その場所はとても過酷な場所であって、人が立ち入ることもできないぐらい危険な場所だ」


ジャヒールが答えると、アミールたちは耳を傾けた。


「そのような場所があるんだ・・」


アミールが言うと、ジャヒールはうなずいた。


「じゃ、どうやってサソリを捕まえて毒にしたの?」

「奴隷を使って、サソリをおびき出す」


アブが聞くと、ザアードは食事しながらそう答えた。


「おびき出すって・・?」

「餌にすることだ」


サマンが聞くと、サラムは水を飲んでからそう答えた。


「タックスの奴隷は、特に子どもたちや年寄りだと、働くことができないから、大体ゴルダ砂漠に投げ込まれる。元々肉食のサソリが餌がないと共食いするほど凶暴なサソリだが、人がいると、食いつきが良い。だから、事情が分からない奴隷たちがサソリの谷に投げ出されて、逃げようとする人もいれば、隠れようとする人もいる。だが、どこに逃げようとしても自分自身よりも大きなサソリたちに食われてしまうだけだ」


サラムが言うと、サマンたちの顔が険しくなった。


「逃げたら、どうなる?」

「手と足が鎖に繋いだまま、遠くへ逃げられるとでも思うのか?」


サラムが言うと、ザアードはうなずいた。


「そもそもサソリがたくさんいる場所に投げ込まれたのだから、もう逃げられないよ」

「えっ・・」

「それで、おなかがいっぱいサソリがそのまま眠ってしまう。その時に、サソリの毒を回収に、毒ハンターが素早く動く訳だ。毒は尻尾にあって、切れば、数ヶ月ぐらいしたらまた生えてくる」


ザアードが説明すると、先ほどまで食事していたサマンたちは急に食欲を失った。


「裏の世界に入ろうとするおまえらは、そのぐらいのことを知らないとダメだ。嫌なら、表を選べば良い。村のために働いてくれるなら、俺たちも安心して仕事できる」


ザアードが言うと、ジャヒールはうなずいた。


「正論だ」


ジャヒールは肉をつまみながらそう言った。


「ところで、ウードの先生はどこで見つけた?」


サラムが聞くと、ザアードは考え込んだ。


「イブラヒムが楽器屋に尋ねて、楽器屋の主人が彼を紹介した。身元も確かな者だったから、採用したが、このことに関わっているかどうか、これから調べて分かることだ」


調べる、とサバッダが思わずザアードに視線を移した。そのような生やさしいことではないはずだ。


「関わりあるか、否か、その人を解雇するだろう?」


ジャヒールが言うと、ザアードはうなずいた。


「タレーク家では、そのようなリスクをできるだけ排除したい」


ザアードはそう言いながら、干し葡萄をつまんだ。


「イブラヒムはどうする?」

「あの人は父さんの配下だ。ことを未然に防ぐことができなかった以上、ジャンのそばにもう二度と付くことができないだろう」


ザアードが言うと、サラムは考え込んだ。


「父さんがいらないなら、俺がもらいたい」

「そのことを自分で父さんに言え」

「そうするよ」


サラムはため息ついて、グラスを見ている。


「さて、俺は寝る。やることはないし、いつまでここで閉じ込められるか分からない」

「なら、好きな部屋を選べ」

「分かった」


ザアードが言うと、サラムは立ち上がって、そのまま端っこの部屋を選んで、そのまま扉を閉めた。サバッダたちは結局しばらく食事をして、ジャヒールとザアードの会話を聞いている。


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