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ウルダ(34)

朝っぱらから忙しい。なぜなら、今日は双子の結婚式だからだ。特に仕事がないジャンはサバッダと一緒に庭へ出て、朝っぱらから他の子どもたちと一緒に朝ご飯を食べてから彼らと一緒に遊んだ。そして遊び疲れて、彼らはジャンの周りに座って、紅茶と砂糖の揚げ物を食べながら会話したりしている。


「そういえば、前にジャヒール先生が言ったあのカードの遊びはどんな物か、教えてくれ」


サバッダが言うと、ジャンは首を傾げた。


「でもカードが必要です」

「ここで作れるか?」

「厚紙とペンがあれば、作れます」

「紙はどのぐらい必要?」


サバッダが言うと、ジャンは指で計算して、その答えを言った。サバッダはうなずいて、近くに立っている侍従に命じた。


「そもそもその遊びは、イルカンディア人が良くやっている遊びなのか?」

「はい」


ジャンは目の前にある砂糖の揚げ物を取って、食べ始めた。


「彼らはほとんど船乗りだから、船の中で長時間楽しめる遊びは何かと考えると、答えはカード遊びしかありません」

「そうだったのか」


サバッダがそう言いながら戻って来た侍従から紙とペンを受け取って、そしてジャンが食べ終わるまで待った。侍従のイブラヒムはタオルを持って、揚げ物を食べ終えたジャンの手をきれいに拭いた。


「その揚げ物が好きなんだね」

「はい」


ジャンは笑いながら答えた。そして目の前にある紙をみて、四つに分けてから丁寧に絵を描いた。他の子どもたちはサバッダと一緒に紙を切る作業に当たった。切った紙はジャンの前に置いた。


「ほう、何をしている?」


突然ザイドが見えると、ジャンと子どもたちは作業をやめて、ザイドに挨拶した。サバッダはイッシュマヤの港で聞いたカードゲームの話をすると、ザイドは興味津々とジャンが書いたカードを見ている。


「続きなさい」

「はい」


ザイドが言うと、ジャンは再びカードに絵を描いた。他の親戚もザイドの周りに来て、子どもたちの作業を興味津々と見ている。


「できました」


ジャンが言うと、子どもたちはキラキラとした目でそれらの紙を見ている。


「どのように使うか、説明して」


ザイドは興味津々とジャンの前に座って、カードを見ている。ジャンはうなずいて、簡単に説明した。そして試しに、カードをシャッフルしてから遊び始めた。そうやって彼らは夢中になって、時間が流れることに気づかないほど遊んでしまった。侍従が時間を教えるまで、ザイドでさえ今日は自分の娘の結婚式であることを忘れてしまった。


「面白い」


ザイドは笑って、手元にあるカードをジャンに返した。


「後でまた教えてくれ」

「はい」


ザイドは立ち上がって、ジャンを見ている。そして彼は迎えに来た侍従と一緒に行った。


「ジャン叔父さんはどこで覚えたの?」


ザアードの息子、サルマンが聞くと、ジャンは少し考え込んだ。


「ここに来る時に、お祖父様が船の中で教えてくださいました」

「お祖父様?」

「はい」


ジャンはカードをシャッフルしてから、彼らの前に配った。サルマンたちは配られたカードを持って、中身を見ている。


「ジャン叔父さんのお祖父様って、名前はなんていうの?」

「うーん、分かりません」


ジャンは素直に答えた。


「いつもお祖父様と呼んだから、名前は分かりません」

「それはダメだよ」


サルマンが言うと、ジャンは素直にうなずいた。反省する、とジャンが言うと、サバッダたちはうなずいた。


「あ、なんか聞こえた」


サルマンの弟、サブリが言うと、彼らはゲームをやめて、耳を傾けた。


「新郎が現れたんだ」


サバッダはそう言いながら立ち上がって、ジャンの手を引いた。


「イブラヒム、カードの回収を任せた」

「かしこまりました」


サバッダが言うと、侍従のイブラヒムは子どもたちが先ほどまで遊んだカードを回収した。ジャンはサバッダに抱きかかえながらザイドたちがいる所まで行った。


ジャザル家がド派手な音楽団が現れた。新郎であるアシュハリ・ジャサルは馬に乗って、人々の視線を浴びて落ち着かない様子だった。その周りにはジャザル家の人々が歩いて、贈り物を運んでいた。その一行の後ろにはアミーン家が現れた。新郎のラシャド・アミーンも同じく馬に乗って、笑顔で現れた。その周りにはアミーン家の人々がいて、贈り物を運んでいる。


人々は二人の新郎を見て、静かになった。ザイドはうなずいて、二人を歓迎してから、二人の父親と穏やかな顔で挨拶を交わしてから、中へ案内した。部屋の中でサブリナとサマリナがもうすでに座って、落ち着かない様子で待ったいる。


「サブリナ姉さんとサマリナ姉さんはきれいですね」


ジャンが言うと、サバッダはうなずいた。


「結婚式だから、普段よりも着飾っているよ」

「頭飾りが重そうですけど・・」

「まぁ、金だからね」

「首飾りが多いですね」

「ははは、そうだね。それも金や真珠、そして宝石で作られた飾りだ。手や足にも豪華に飾られているんだよ」


サバッダは笑いながら二組の新郎新婦を見て、再び外へ出て行った。その理由は、これから式が行われるから、彼らがその場にいると、邪魔になるだけだからだ。一人の侍従が入って、司祭が来たという知らせをザイドに言うと、ザイドはまた外へ出て行った。


司祭が見えていくと、結婚式が始まった。ジャンが結婚式を見たかったけれど、サバッダは笑いながら首を振った。ダメだ、とサバッダはそう言いながら少し離れた場所で待機する。


「司祭が外へ出て行った」


サバッダが言うと、ジャンは部屋の入り口を見つめている。


「あ、サマリナ姉さんとアシュハリさんが出て来ました」


ジャンが言うと、サバッダはうなずいた。この時点では法的に二人が夫婦になった。けれど、伝統的に、二人が新郎の家に到着するまで夫婦として成立していない。


「後ろもサブリナとラシャドが出て来た」


サバッダが言うと、ジャンは彼らを見て、うなずいた。


「これから何をしますか?」

「新郎と新婦を休ませて、お昼を食べる。お昼が終わって、少し話し合いをして、二人はそれぞれの新郎の家に行く」

「私たちも行くのですか?」

「行かない」


サバッダは首を振った。


「僕たちは今日一日中ここにいるよ」

「ふむふむ」


サバッダが再び先ほどの座り場所に向かって、周囲を見ながら歩いた。ザイドはジェナルとアミーン家の当主が和やかな雰囲気で会話しながら食事した姿が見えた。ザアードとサフィードもいて、彼らは微笑みながら紅茶を飲んでいる姿が見えた。


「そういえば、ジャヒール先生が来ませんね」

「先生は、ジャザル家でお留守番するんだって」


サバッダはそう言いながらイブラヒムが待ったいる庭の一角に足を運んだ。


「留守番が必要なんですか?」

「当たり前だ」


サバッダはジャンを降ろして、子どもたちの前に座った。彼らはもううずうずとトランプを遊びたくて、仕方がない。


「留守番しないと、何があったら、分からないだろう?食べ物に毒が盛られたり、盗人が入ったりして、一大事だからね」

「はい」


ジャンはそう言いながら、イブラヒムからカードを受け取って、そのままシャッフルした。


「じゃ、アミーン家にも、留守番役がいるのですか?」

「当然だ」


サバッダはうなずいた。


「アミーン家はああみえても、大商人だ。当然、凄腕の用心棒らを日頃雇っている。だからそこまで心配することはないよ」


サバッダはそう言いながら配られたカードを取って、中身を見た。ジャンは他の子どもたちにもカードを配って、残ったカードを真ん中に置いた。ジャン自身はゲームを参加しないで、順番に教えている。今回はサマッドの隣にいて、丁寧に教えている。サマッドはうなずいて、コツをつかんだ。ゲームが終わると、ジャンはサブリの隣に座って、コツを教えている。


「はい、もうそろそろご飯だから、終了だ」


いきなりサラムとサキルが現れると、子どもたちは仕方なくゲームをやめた。


「ジャン叔父さん、また今度教えてください」

「はい」


ザアードの長男、サルファラズがいうと、ジャンはうなずいた。体が大きなサルファラズは今年は12歳だ。サルファラズはザアードとはあまりよく似ていない。どちらかというと、彼の顔がサブリととても似ている。多分母親に似ているかもしれない、とジャンは思った。ジャン自身はザアードとサフィードの妻たちと会ったことがない。


「イブラヒムさん、預かってくれますか?」

「かしこまりました」


ジャンが言うと、イブラヒムは丁寧にカードを回収して、懐に入れた。侍従たちは数々のご馳走を持って、ジャンたちの前に置いた。ジャンは目を丸くして、それらの料理を見て、瞬いた。


「始めて見た料理です」


ジャンが言うと、サラムは笑いながら、ジャンのお皿にそれぞれの料理を盛り上げた。途中でサバッダに盛りすぎると言われると、サラムは笑って、そのままジャンの前にお皿を置いた。


「まぁ、食べなさい。残しても構わない」

「はい!」


サラムが言うと、ジャンはうなずいて、食べ始めた。


「美味しい」


ジャンは葡萄の葉っぱにくるまれた肉と米料理を食べると、瞬いた。オグラット村で食べた料理に似ているけれど、味がこちらの方が断然美味しかった。


「それが好きか?」


サラムが聞くと、ジャンはうなずいた。


「場所によって、作り方が違うからな。うちでは、トマトや干し葡萄などを混ぜて、味の深みを出しているんだ」


サキルが言うと、ジャンはうなずいて、また口に入れた。


「じゃ、この味は他所では食べられないのですか?」

「どうだろう」


サキルは考え込んだ。


「食べられるかもしれないが、提供してくれる場所は限られているだろう」


サラムはそう言いながら、串焼きを食べる。


「まぁ、とにかく、手間暇がかかった料理に勝る物はない。ありがたく食べよう」

「はい!」


サラムが言うと、ジャンはまた美味しそうに他の料理を食べた。あれこれと食べて、最後に甘い物を食べると、ジャンはおなかをさすって、苦しそうに紅茶を飲んで、口の中に残った物を飲み流した。食べ過ぎた、とジャンが言うと、サバッダたちは笑った。


音楽団が音楽を奏でると、サバッダは歌いながら踊り出した。子どもたちも歌いながら踊ると、サラムは笑いながらジャンを立たせて、踊り始めた。ジャンも嬉しそうに彼らの動きに合わせて踊って、歌って、最後に思いっきり笑って、とても幸せな気持ちになった。


その日の午後、サマリナはアシュハリの馬の後ろに乗って、ジャザル家に嫁いた。後ろに、ラクダや馬車が二人の後ろでゆっくりと動いて、大量の荷物を運んだ。


「あれは嫁入り道具だ」


サバッダが首を傾げたジャンに言うと、ジャンは瞬いただけだった。


「ヨメイリドウグ?」


ジャンは首を傾げながら聞いた。


「娘が結婚後の生活に困らないように、親は金や絹、棚や身の回りの道具などを持たせる。要するに、家から離れていく娘のために与えられる親の愛情だ」

「サブリナ姉さんも同じ物をもらうの?」

「当然だ」


サバッダは荷物を準備している侍従らを示しながら説明した。


「それにしても多いですね」

「後は、まぁ、タレーク家の娘だから、お粗末に扱われないように、という意味もある」


サバッダは泣き出したサブリナを見て、思わず自分の目から出て来た涙を拭いた。


「そんなことをする人がいるのですか?」

「いるよ」


サバッダはうなずいた。


「きみはエマル・ザニフとウマル・ザニフは知っているだろう?」

「あ、はい。二人は羽根取り合戦も参加していた人ですよね?」

「そうそう。まだ8歳と6歳の男の子だけど、あの二人の名前に、タレークの名字ではなく、ザニフという名字だろう?」

「はい」


ジャンはうなずいた。


「彼らの父親が暴力的な男だった。特に酔っ払った時に、手が付けられないほどの悪い男だった」

「ふむふむ」

「ある日、その男が酔っ払って、彼らの母親は、つまり俺の姉、サイナ姉さんに殴る蹴るなど、ひどい暴力を振ったんだ。終いに、近くにある物で殴って、ひどい傷を負わせた。傷を負ったサイナ姉さんは必死の思いで子ども二人を連れて、逃げてきたんだ」

「サイナ姉さんは、無事でしたか?」

「無事は無事だけど、無傷ではなかった。顔にひどい傷があって、体中も傷だらけだった。医者が手当てをしたけど、傷跡は消えなかった。二人の子どもは、彼女が必死に守ったおかげで無傷だった。当時はまだ2歳と生まれたばかりの赤ん坊で、大変だっただろう」


サバッダが言うと、ジャンは瞬いた。


「二人のお父さんはどうなりましたか?」

「彼は妻と息子らを追って、タレーク家の庭で武器を振り回して、タレーク家の下男を襲った。当然なことで、騒ぎを聞いたザアード兄さんが対応して、結果的にあの人を殺した。お頭の判決によって、それは正当防衛だ。ザニフ家に非があると決まって、ザニフ家に送られた嫁入り道具を取り戻して、父さんは三人を保護した。サイナ姉さんが正式にザニフ家と別れたけど、二人の息子はやはり父親はザニフ家だから、仕方なく名前をそのままにした。17歳になったら、彼らがタレーク家になりたいなら、名前の変更ができる。が、父さんはザニフ家からの接触は一切禁じた」

「ザニフ家は何もしませんでしたか?」

「まぁ、接触は何度も試してみたけど、子どもたちも自分の父親の行いを、どんなことをしたか、分かっている。特に母親がどんなひどいことをされたか、理解しているよ。あの傷を見れば、小さな子どもでも理解するさ」


サバッダがサブリナに手を振ると、ジャンも手を振った。サブリナがラシャドの馬に乗ると、一行がゆっくりと動き出した。


「私は、サブリナ姉さんも、サマリナ姉さんも、幸せになって欲しいです」

「僕もそう願うよ。だが、これだけはなんとも言えない」


サバッダはもう見えなくなった彼らを見て、再びジャンを抱きかかえながら歩いた。村の人々も移動して、これから宴を行うジャザル家とアミーン家の住まいに向かった。残された客はタレーク家の親戚だけで、屋敷の周辺が静かになった。侍従と下男たちが外を掃除し始めると、サバッダはジャンを自分の部屋に連れて行った。部屋で、二人が楽しくカードゲームをした。一時ぐらいすると、今度はサラムが部屋をノックして、三人でカードを遊ぶことになった。


「そういえば、ジャヒール先生が言ったけど、ジャンがカードに何かをして、相手が分からなくなった、だとか」

「うーん」

「仕掛けがあったのか?」


サバッダが聞くと、ジャンは考え込んだ。


「あの時、値が大きなカードに仕掛けがあったんだ。あ、紙を下さい。薄い紙でも大丈夫です」


ジャンが別の紙を求めると、サバッダは急いで自分の棚から一枚を取り出して、ジャンに差し出した。


「こうやって、小さく付けて、剥がれやすいのりで接着されました」


ジャンは紙を少し切って、カードの後ろに付けた。サバッダはまた棚に行って、のりを探した。見つかったのは古いのりだったけれど、なんとかなる、と彼は思って、ジャンの前に置いた。


「その時は夜で、灯りも油のランプ一つだけだったから、普通の人なら見えないと思います」

「ジャンは普通の人じゃないのね」

「うーん」


サラムが言うと、ジャンは考え込んだ。


「うーん、私も船乗りのおじさんに教えてもらわなかったら、多分分からないと思います」


ジャンは正直に言った。


「教えてもらったのか?」

「はい」


ジャンはうなずいた。


「あの時、年老いた船乗りの人が私にいろいろと教えてくれました。そうすれば簡単に稼ぐことができる、と彼は言いました」

「ほう、彼は今どこに?」

「亡くなりました」


ジャンは悲しそうに答えた。


「それは残念だ」


サラムは優しい顔を見せながら、カードと仕掛けを見ている。


「彼はどうやって死んだ?」

「お酒を飲んで、海に落ちてしまいました。頭が強く打って、他の船乗り員が引き上げたけど、もうすでに死亡して、再び海に流しました」

「・・そうか。きみは見たのか?」

「はい」

「それは気の毒に」


サラムはジャンを見て、カードと仕掛けを一つにした。暗い所だと確かに見えにくい。昼間だとバレバレだ、とサラムは思った。


「きみはどうやって相手の仕掛けを外したの?」

「あ、それなら簡単です」


ジャンはカードをシャッフルしながら指を巧みに動かした。仕掛けが床に落ちて、残りはきれいなカードだけだった。


「で、その時、賭けの勝ち条件は値が大きなカードを選ぶことだったので、一つだけをこうやって押さえて、シャッフルすれば、ばれないと思います」

「・・・」


サラムはジャンの指を見ながらやって見た。が、難しくて、できなかった。


「もっと訓練しなければならない」


サラムはカードを見て、自分に言い聞かせた。


「きみは何ヶ月でそれをマスターした?」

「マスター?」

「その技を完璧にできることだ」


サラムが言うと、ジャンは首を傾げた。


「うーん、最初はダメだったけど、いつの間にできました。船に乗る間に、やることはほとんどなかったから、そればかりをやりました」

「なるほど」


サラムは自分の手を見て、うなずいた。


「ジャン、このカード、借りても良い?」

「良いですが、そのカードで、何をしますか?」

「新しいカードを職人に作らせようと思う」


サラムが言うと、ジャンは瞬いた。


「今からですか?」

「今からでもやりたいが、職人らもこの行事で疲れただろう」

「あ、はい」

「とりあえず、同じ物を作って、練習する」

「私が作りましょうか?」


ジャンが言うと、サラムは微笑んだ。


「明日にしよう。今日はたくさん歌って、踊ったりしただろう?」

「あ、はい」


ジャンがうなずくと、サラムは笑って、ジャンの頭をなでた。そして彼は立ち上がった。


「サバッダと一緒に夕飯を食べなさい。俺はこれから忙しい」

「はい」


サラムは微笑んで、ジャンの鼻をつまんでから、カードを持って、外へ出て行った。

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