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 井伊直虎か〜。どんな人だろ。やっぱり美人かな?


 ワクワクしながら直虎が待っているというところへ向かう。


「ここですよ、瀬名様」


 危うく通り過ぎかけて、空が教えてくれた。


 そこは、門にほど近い、そこまで豪華ではない部屋だった。


 中に入ると、もう雰囲気だけでかわいい少女が頭を垂れて待っていた。年齢は、十歳…いや、九歳ぐらいだ。


「井伊の姫様ですか?」


「はい。直、と申します」


 顔を上げたのは、美人だった。いやもう、これは美少女じゃなくて美人だ。

 母上といい、彼女といい、井伊家の女性は大人びていて美人らしい。俺にもその片鱗があると良いのだが。いや、あるか。大人びているかは別として、美人だもんな。


「直…井伊家の通字(とおりじ)ですね」


「まあ、まだ六つだというのに。聡明という話は本当ですね。尊敬いたします」


 こちらこそ、九歳でそのしっかり度は驚きだよ。


 ちなみに、通字というのはその家の男児の名前の殆どに含まれる字のこと。例えば、織田家の通字は信で、信長だけでなく父や弟、息子にもこの字がある。まあ、兄弟でも下の方なら通字がないことがあるんだけどね。


 まあとにかく、直虎…いや、直さん?


「それで、本日はどうして?」


「亀之丞を…許嫁を救っていただきたいのです!」


 亀之丞…直さんの許嫁。後に井伊直親と名乗ることになる。


 直さんの話によると、亀之丞の父が今川に謀反を疑われ、殺された。今川の魔手はまだ幼い(直さんと同い年)亀之丞にも伸び、なんとか信州に逃げ延びたものの、捕まってしまったのだという。


「つまり、助命嘆願を手伝ってほしいのです。…お願いできますか?」


 うーむ。助けてあげたいのはやまやまなんだけど、ロリコン野郎に会うのはな…。

 いやでも、もしその人が井伊直親だった場合、死んでしまったら徳川四天王の一人・井伊直政が生まれない…。よし、助けよう。


 …あれ?待てよ?


「その方は、本当に亀之丞殿なのですか?」


 ふと疑問に思ったことを口にしてみた。


「そのことなのですが、今回私が駿府へやってきたのは、本人確認のためなのです。もし偽物だったら体裁が悪いからと、まだ公開されていないようで…」


「じゃあ、本物じゃないかもしれないと?」


「いえ…。ここに来る途中、笛の音を聞きました。あれは、亀之丞の笛です。残念ながら…聞き間違えることはないでしょう」


「なるほど…」


 確か、青葉の笛だっけ?いやあ、愛だな〜。となると、助けてあげたいけど…。


「助命嘆願についてはお任せください。ただ、瀬名がついていっても良いのでしょうか?瀬名はあい…。太守様にその、あれですので…」


「はい、お噂はかねがね。実は、寿桂尼様が手引してくださるとのことです」


「寿桂尼様…寿桂尼様ですか!いいですね!」


「い…?はい、そうですね」


 あ、引かれちゃった?いやでも、寿桂尼だよ?女戦国大名だよ?義元の母親だから若干の不安感はあるけど、でも、ワクワクするじゃん。


「直様、その話、受けます。この瀬名が、亀之丞殿を絶対に助けてみせましょう!」


「ありがとうございます!では、三日後、巳の刻にお伺いします」


「お任せください」


 何度もお礼をして、直さんは帰っていった。


 そして、意気揚々と部屋に戻ってきたのだが…。


「瀬名、それはなりませんよ」


 思わぬ壁にぶち当たった。母上が反対したのだ。


「なぜですか?瀬名は直様を助けたいのです!」


「ダメです。母は、あなたまで今川のせいで失わなければならないのですか?今の井伊に運はありません。睨まれています。きっと何もかも、踏み潰されてしまうでしょう」


 この上なく実感のこもった言葉だった。でもな、そういう訳にはいかないだろうよ。そもそも俺は歴史を変えちゃいけないんだ。


 亀之丞が死んだら直政が生まれないじゃないか!


 そんなことをしたら歴史が変わってしまう。仮に大筋に影響はなかったとしても変わるものは変わるのだ。


 よって、母上の意見は受け入れられない。


「そんなことを言って、なぜ母上は諦めてしまうのですか。禍福は糾える縄の如しと申します。なぜすべてが今までと同じだと、そう思ってしまうのですか。今までとは違います。ここには瀬名がおります。直様は捕らえられたのが亀之丞だと知っております。今までより、有利な状況なのです」


 いやまあ、不幸はこのあとも続くんだけどね。っていうかここからが本番なんだけどね!


 しかし、諦めてはいけないのだ。それじゃあ浮かばれないし、いつまで経っても幸せになんかなれないだろう。


「瀬名、危険です。私はもう、大事な人を喪いたくありません。どうか行ってしまわないで」


 うっ…。切実だな…。そういえば瀬名姫って母親を置いて…いや、やめよう。今未来に思い至っても仕方ないのだし。


「絶対にそんなことは致しません。必ず帰ってくると約束します」


「ダメです。そんなことを言っても、皆死んでしまうのです。なりませんよ」


「では母上は、亀之丞殿が死んでも良いのですか」


 俺の言葉に、母上が反応した。


「嘘をついた罪で、直様が殺されてしまっても良いのですか。生まれ故郷が焼け野原となり、大事な家族が死んでしまっても良いのですか!」


「それは…。でも、あなたが死んでしまったら、私はもう、もうだめなのです。死んでしまいます」


 母上はとうとう泣き出してしまった。どうしよう。ここまで来たら俺には何もできない。と、


「お方様。私も参ります。絶対に、何があっても姫様をお守りいたします」


 いつの間にかやってきた空が、母上に言った。


「…本当ですか?約束できるのですか?」


 上目遣いで言う母上。かわいい。俺の母上が美人すぎる。


「お任せください」


 ニッコリ笑う空もかわいい。…どうやら、俺の周りには美人がよってくるらしい。


「…では、お願いします」


 母上が空に向かって深々と頭を下げた。…俺、そんなに信用ないのかな?

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