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突然

 10月24日。龍司は、体調不良でこの日の全ての仕事を休むことにした。

 相変わらず、毎日のように純子は龍司の脳内を支配している。最近は、龍司が朝に目を覚まして眼鏡をかける前にもう純子は鎮座しているという始末。就寝して眠りにつくその瞬間まで出て行ってくれない。

 純子のことを考えている時間は、龍司にとっては幸せな瞬間ではあった。しかし暖かな気持ちにはなるが、生活に支障をきたすレベルになってしまっては、またそれは当然別の話になる。ノイローゼになりそうだ。いや、もうとっくに発症しているのだろう。

 数日、同級生に連絡を取るか躊躇していたが、もう限界だ。龍司は意を決した。しかし、何て言えばいいのだろう。どんな内容で連絡を取っても、唐突すぎる。

「最上純子って覚えてる? 連絡を取りたいんだけど、どこにいるかわからないかな」

 10年振りくらいにこんな内容を送信したら、全員にかなり不審がられるに決まっている。だがそれ以外、何て言ったらよいのかわからない。ノイローゼ気味の龍司は判断力が鈍っていたせいか、結局その内容で数人にLINEやフェイスブックのメッセンジャーなどで連絡した。細かいことを考えている余裕もなかった。とにかく解決に向けて、動きたかった。

 

 ほとんどの友達から返信は来た。

「そんな人、いた?」

「わからないな~」

「名前だけは聞いたことあるけどね」

 そんな返答ばかりだった。痛いのは、純子との共通の友達がいなかったことだ。ある程度の予想はしていたのだが、見つからないことはショックだった。やはり、これが現実だった。当たり前と言えば、当たり前だ。卒業から28年も経っている。時間という濁流に飲まれて風化していくのが人間関係だと、龍司自身も経験上わかってはいた。一縷の望みに賭けていたが、甘くはなかった。

 振り出しに戻ってしまった。相変わらず、全ての瞬間、純子に脳内を支配されていた。離婚して孤独になった現実を受け入れられていないことの裏返しとして、こんな精神疾患に陥ったのか。それともこれがリアルな現実で、神からの宿題として怪奇現象を解決する義務があるのだろうか。大切な、言うべきことを言わなかった、贖罪なのか。他に自分が犯してしまった何かに対する、罰なのか。

 龍司の人生にとって、史上最難解な事案だった。コンサルタントとして培ってきた問題解決能力をフル動員しても、全く歯が立たない。朦朧としながら、途方に暮れていた。半ば、諦めの境地にいた。



「長谷川、久しぶりじゃん。どうしたの?」

 フェイスブックのメッセンジャーに、返信があったのは10月28日。もう誰からも返信は無いな、と完全に諦めていた直後に同級生の松田奈美から連絡が届いた。

「最上純子って覚えてる? ちょっと聞きたいことがあるんだけど、奈美、彼女の連絡先知らないかな」

「純ちゃんね。うちの近所に住んでるよ。結婚して子供も2人いて、看護師やってるよ」

 突然、その日は来た。

 ついに、純子の所在がわかった。龍司は、興奮を抑えることが出来なかった。その線は最も可能性が低いと思っていたが、まさか地元にいるとは完全に予想外だった。地元には何度も訪れていたから、すれ違っていたりしたかもしれない。しかも、純子は奈美の遠縁の親戚だということも驚いた。

「純ちゃんにはいつでも会えるけど、何か伝えとく?」

 どう説明したらよいのだろうか。

「まあ昔の話だし、迷惑だろうからな~」

 龍司は誤魔化すような返信をしたが、奈美が間髪入れずに切り込んでくる。

「なんだよそれ~。気になるからちゃんと言ってよ」

「まあ、だよな。奈美、絶対に誰にも言わない?」

「言わない!教えて!」

 話の想像がついたのか、奈美はわくわくした様子で催促してきた。

「ちょっと長くなるけど、いいか」

「もちろんOK」

 龍司は電話を奈美にかけて、18歳の頃から今起きている謎の現象のことまで、まるまる全て打ち明けた。奈美はかなり驚いていたが、最後には「いや~、長谷川、ウケるわ」と笑っていた。奈美は、全面的に協力してくれると約束してくれた。本当に奈美は昔からいいやつだ。

「長谷川龍司が、聞きたいことがあるから電話してもいいか」

 そう伝えてもらうことになった。

 27年振りに突然そんなことを言われたら、純子は引くかもしれない。電話をすること自体、怖がって拒否される可能性も低くはない。しかし、もうここまで来たら後戻りをする気にもならなかった。夢の中の世界から、急に生々しい現実感を帯びてきて、龍司は緊張していた。奈美からの連絡を何日待てばいいのかわからない。違った意味で、龍司はまた寝不足の日々となっていた。



 モノクロームに劣化していたはずの心の色彩 ──

 

 突如として、煌びやかに鮮やかな光を放ち始めていた。

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