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白いワンピース

 2021年10月初旬、龍司は時計の針が18時になったのと同時にデスクから立ち上がり、職場を後にした。1階2階の両方にコンビニが入っているオフィスビルのエスカレーターを降り、高島屋前の地下に続く入口の階段を抜け、副都心線新宿三丁目駅の改札へ向かった。渋谷駅で田園都市線に乗り換え、用賀駅までの所要時間は30分弱。

 七海と離婚し、1人で用賀に住み出して3ヶ月以上が経過した。息子の裕太には、夕食や海釣りなどで週1回は会っている。このルーティーンにもだいぶ慣れてきた。最愛の息子との時間は幸せと喜び以外の何物でもないが、やはり帰る家が別々というのは非常に堪えるものがあった。独身の身軽さ20、寂しさ80、そんな割合だろうか。

 財産分与して失った分の仕事や収入に関しては、また数年かけて作っていけばいい。しかし自分の人生はどうなってしまうのだろうか。龍司はいつも、一定量の不安に苛まれていた。このまま孤独老人になり、この大都会で静かに人生を終えるのだろうか。または、この年齢から運命の人が出現したりするのだろうか。瞬間、後者はあり得ないな、と思い直す。


 用賀駅前にある個人経営の弁当屋で、生姜焼弁当を購入した。みそ汁は、サービスで付いてくる。思った以上に何でも旨いこの弁当屋は、龍司のお気に入りの店だ。人と会う予定もなく、作るのも面倒な日は、ほぼ必ず立ち寄っている。

 帰宅後、同業者とウェブ会議のツールを使い情報交換したり、メールの返信業務、書類作成なども一気に片付ける。息子に電話し、部活の調子を聞いたり日曜日の釣りはどこでやるかについて話し合ったりした。悪くない生活ではあるが、心にポッカリ空いた穴は数ヶ月で埋まり切るものではなく「楽しくて充足感で一杯」という日は、皆無であった。

 

 10月も第2週に差し掛かった頃。それは予兆も全く無いままある日突然、龍司の脳内に発生した、断続的で不可解な現象の始まりだった。

 

 久々に終日オフを取っていた龍司は遅めに起床。近所のコーヒーショップでベンティーサイズのアイスカフェラテをテイクアウトして、散歩のような歩調でマンションへ戻っていた。秋晴れの10月の東京は、最高に心地の良い気候だ。

 信号待ちの向かいの歩道に色白で華奢なショートカットの若い女性が佇んでいて、白いワンピースがよく似合っている。20歳くらいだろうか。信号が青になり、龍司は横断歩道へ進んだ。途中、その若い女性とすれ違う瞬間、何気なく顔を上げると明らかに彼女は龍司をじっと見ていて、視線を外さない。目が合ってしまったのが気まずくなり、一瞬逸らすが、もう一度見てみたら彼女はまだ龍司に強い視線を送り続けている。どこかで会ったことがある人なのだろうか。記憶を探ったが、思い当たらない。


「不自然だな」

 そう感じたのと同時に、立ち眩みのような状態に龍司は陥った。


 そして、信じられないものが、視界に入る。






「純 ………… 子?」






 目の前にいたその女性は、純子であった。

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