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モノクロームな症候群

 季節はめぐり、また春が訪れ龍司は28歳となった。

 仕事が伸びに伸びて、龍司は意識の全てを仕事に集中させていた。収入は、バイト時代の4倍近くになっていた。新しい人間関係も爆発的に増えていき、それに比例して龍司の世界は大きく広がった。そのまま地元にいたら一生関わることはなかったような、世の中を動かしているような起業家とも接点を作ることが出来、そういった追い風に押されて、龍司は乗りに乗っていた。努力の末に掴んだ達成。日々が充実感の光に照らされていた。


 クライアント主催のパーティーで、七海と出会った。今まで関わってきた女性のどのタイプとも合致しない人で、資産家の娘でありながら、親の援助無しでブライダル業界で起業し、若くして結果を出している女性だった。明るく、クールで、はっきりとモノを言うタイプ。とにかく仕事に夢中だった龍司と七海は、気が合う友人として連絡を取り合っていた。少なくとも龍司にとっては、これ以上刺激的な女性はいないなと感じていたが、こういうタイプの女性とお付き合いするということはあまりイメージ出来ない、というのが率直な感想だった。恋人になったとしても、ビジネスパートナーとしての意味合いの方が強い付き合いになる気がするが、ただ仕事をバリバリして生きていくならこういう人もいいのではないか、とも龍司は思い始めていた。後に夫婦となる龍司と七海だったが、この時点では予兆めいたものすら生まれていなかった。


 久しぶりのオフを取った龍司は、数年ぶりに地元に戻っていた。長らく未訪で気にかけていた墓参りのためであった。その帰りの道中、龍司は「あの日」以来9年振りに御幸通に寄ってみることにした。

 思い出すと胸がチクりと痛み、地元に帰省しても今までなるべく避けてきたが、時間と共に美しい思い出として精製された今、懐かしい場所として心の中に留置されるまでになり、訪問を決めた。


「路地裏」は、もう移転してあの場所にはない。そこから伸びている小道を抜け、交差点を右折すると御幸通に出る。この曲がり角で、純子が白い傘を開いた情景が今もくっきりとした彩りでイメージ出来る。そこからほんの300mくらいに純子の実家があり、あの日、すぐに到着してしまわないように相合傘の2人はどちらからともなく、なるべくゆっくりと歩いていた。


 無言になってしまった。

 腕が触れ、ハッとして、好きだと言えなかった。

 逃げるように、雨に濡れながら走り去った。


 不器用な少年だった、19歳の夏 ──

 龍司は、微笑みながら、ため息を大きくひとつ、吐いた。

 もう純子は、この街にはいない。幸せにしているのであろうか。


 

 セピアの想い出は、ふいに鮮やかになり、

 時にはモノクロームな無の色彩の光を放ちながら、


 様々な感情を伴って、まるで症候群のように、

 度々、龍司の人生の中に現れてくるのであった。

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