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回帰線

 人が変わったように、龍司は日々本気で仕事に取り組んでいた。

 クライアントも順調に増やし、やっと個人事業だけで生計が立つようになることも見え始めていた。高校時代の情熱的だった自分がやっと戻ってきた実感があり、嬉しかった。

 

 陸上競技と、恋に夢中だった、あの頃 ──


 純子は今、どこで何をしているのだろうか。

 27歳、もしかしたらすでに結婚しているのかもしれない。

 すでに純子のことは、ノスタルジックな美しい想い出へと昇華し、思い出して胸が痛くなるようなことは無かった。しかし龍司にとって、純子が理想の女性であることは普遍的なものだ。今後、生涯を通じて、純子が「0地点」から移動することはあり得ない。

 もう一生、会えない可能性が高い、純子。気が付けば「純子に近い女性」を探していた。そういう見方は良くないと思いつつも、龍司の中でそれは動かしようのない感覚として凝固してしまっていた。

 

 ふと、卒業式の純子がフラッシュバックした。

 ショートカットの純子は眩しすぎて、今も龍司の眼裏に深く焼き付いている。

 あの、見つめ合った、3秒。何か言いたそうな、言って欲しそうな、そんな表情だった。

 都合のよい妄想かもしれないが、実は両想いだったのだろうか。


 近付けそうで、それ以上、前に進めない。取り決めされているような、定点観測のような距離。

 純子が地球の中心にいて、龍司は回帰線だった。


 あの「3秒間」の真相を確かめないままだったせいで、思い出し続けてしまうのかもしれない。

 遅すぎる。けど、もう一度、純子に会いたい。

 目の前にいるときには、好きだと言えなかった。言えるような自分に成長した頃には、純子はもういない。しかし、全ては過去の想い出だ。


 清廉な、さわやかな笑顔を思い出し、龍司は暖かな気持ちになっていた。


 除雪された駅前通にまた雪が容赦なく降り注ぎ、街を銀白の世界に染め上げていた。

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