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過去の栄光との対比

「龍司、明日の昼間、時間あるか? ちょっと会おうよ」

 ヒロシからのメールが届いたのは、広美と別れて街の中心部から少し離れたワンルームに引っ越してから1ヶ月後のことだった。14時に大通公園沿いのカフェで、久々にヒロシと落ち合った。

「龍司…… 久しぶりじゃん」

 ヒロシが戸惑っている理由は、龍司自身にも何となく理解出来ていた。かなり明るいパーマの茶髪、オレンジ色のボーダー柄のTシャツ、短パンにビーチサンダル、サングラスのような色眼鏡、という龍司の外見に驚きを隠せない、ヒロシ。

 一方、龍司もヒロシを見て別の意味で驚愕していた。細身のスーツをバリっと着こなし、明らかに龍司とは放っているオーラが良い意味で異質だった。結婚して2人の子供と妻を養い、一軒家を新築で購入し、勤め先の商社でも出世して部下も10人ほどいるそうだ。

 龍司は、独立起業を目指して動いているがなかなかうまく前に進まず、広美とも破局し、かなり疲労困憊していることを親友に包み隠さず話した。龍司がただフラフラとだらしなく生活している訳ではないことを理解し、ヒロシは少し安心して笑っていた。


 1時間半くらい仕事の話や昔話で盛り上がり「また連絡するから。今度は飲もうな」と、別れた。

 ヒロシを見送ったあと、龍司はその場から動けずにいた。ヒロシと対極にいる自分の不甲斐なさ。世の中全体で、自分が立っている場所の低さを痛感させられた。何もかもが、中途半端。

「独立、目指してます」と言ったところで、世の中からの評価を考えたら底辺でしかなく、20代後半にもなって、ただフラフラ生活しているフリーターにしか見えない。この事実は残酷にも龍司に突き付けられたが、しかし龍司の今後の人生にとって必要不可欠なものでもあった。

「あいつ、大丈夫かな」と、きっとヒロシは感じていただろう。恥ずかしさと情けなさで、胸が軋んだ。

 

 純子が今の自分を見たら、がっかりするだろうか。それとも、優しく励ましてくれるだろうか。甘えにも似た問いかけを自分自身に向けていた。


「どれを選んでも、間違いではない」

 いつか、国分町のクラブで話した色っぽいお姉さんが言ってたっけ。とは言っても、もう26歳だ。結果を出さないと、さらに様々なものを失う予感が龍司を襲う。

「本気でいい加減、変わりたい」

 内側から激情があふれてくるのを、龍司は感じていた。



 大通公園には、夏の終わりらしく湿度を伴わない突風が吹きつけていた。


 噴水の美しい流線が乱れ、周囲に飛び散った水飛沫に子供達が奇声を上げている。


 過去の栄光と現状の対比を、現実として受け入れようと龍司は必死に自分と戦っていた。

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