歴史的な1ページ
宮城に戻り、龍司はまたいつもの日常を淡々と過ごす日々となっていた。大学の授業、部活、バイト。陸上部の連中と飲み、トミちゃん、西田邸と語り合う。
広美とは、手紙のやり取りをしたり週に3~4回電話したりしながら付き合いが続いていた。突発的に通りすがりのような相手と気の迷いで一夜を過ごし、何となく始まった「一応、公式な彼氏彼女」的な関係だったが、思いのほか相性は悪くなかったみたいで、3ヶ月くらい経過した頃にはそれなりに愛情も持ち合わせ、ちゃんとした交際に発展していた。
ある夜、龍司はトミちゃんに誘われて、彼の軽自動車に乗りコンビニへ出かけた。しかし、トミちゃんの気まぐれで「そのまま海までドライブしながら語ろうぜ」という話になり、亘理の海岸に向かっていた。ある意味「ぶっ飛んでいる人」だ。以前にも、近所のスーパーに買い物行ったはずが、そのまま「蔵王のお釜」まで連れて行かれたことがある。
龍司は、純子への手紙を書いたが出せなかったことや、広美との一連の出来事をトミちゃんに話した。夜のドライブ中の車内は、打ち明け話をついしたくなる不思議な様相に満ちていた。
「ハッセー、やっぱさ、縁ってやつなのかもね」
龍司は、ハッとした。やはり「縁」なのかもしれない。純子と結ばれなかったのも、広美との出会いも。だが頭では理解していたが、まだ悶々と焦燥感から抜け切っていない龍司に対してトミちゃんは言った。
「ハッセーは真面目過ぎるから、一回、自分をぶっ壊してみたほうがいいよ。身体じゃなくて、頭の中をもっと自由にさ」
海岸に到着し、全開にしていた窓から鬱々たる闇夜の潮風と、対称的な耳障りの良い潮汐の音色が断続的に混り入ってくる。龍司は、言葉を発することが出来ずに沈黙していた。少しはマシになったと思っていたが、自分のどの部分が硬いとか真面目なのか、いまいち理解出来ずに困惑していた。その様子に、トミちゃんは痺れを切らした。
「このくらい自由でいいんだよ!」
急に叫んだと同時に、車は急発進し砂浜を抜け、真正面から海に突っ込んで行く。龍司は反射的に座席の肘掛を強く握りしめ、恐怖で身体を硬直させ、目をつぶった。トミちゃんは、ギリギリの境界線でハンドルを急に左に切り、波打ち際を猛スピードで走り出す。容赦なく全開の窓から襲ってくる水飛沫と狂風、それを全くものともせず車はそのまま宙に浮き飛んで行きそうな勢いで直進して行く。光のタイムトンネルを抜けて、異世界にテレポートされているような錯覚に龍司は陥っていた。何かが音を立てて弾け飛んでいた。
1分くらい経っただろうか。車はやっと停止した。あり得ないくらいびしょ濡れの、お互いと車内。同時に顔を見合わせ、大爆笑した。龍司の中で、何かが大きな音を立てて潰滅され、世界の全てが変わった瞬間だった。
龍司の固縮な気質の膜は、鮮烈な光線のシャワーにより完全に剥がれ飛ばされた。トミちゃんが身体を張って底沼から強引な手段で引っ張り出してくれたのだ。龍司にとって、歴史的な1ページ。
この出来事を境に龍司は本質が目覚めた。
明るくエネルギッシュで行動的、大胆な性格へと変貌を遂げて行く。
この日の出来事は、龍司の人生に一生影響してくこととなった。




