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再会

 4ヶ月振りに地元に戻った龍司。家族に近況報告をした後、すぐに桜ヶ丘高校のグラウンドに顔を出し、後輩達に混ざって練習に参加した。すでに1コ下の後輩は最後の大会を終えて引退していたが、龍司の帰省を聞きつけて数名がグラウンドに顔を出してくれていた。設備は、何もない。しかし、やはり龍司はこのグラウンドが好きだった。

 夏の青々とした芝生の匂いが鼻をついて、心地よい。青春の全てがここにあった。龍司は、感傷的な気持ちになっていた。

 

 純子 ──

 帰ってきてはいないのだろうか。会いたい。やはり、今でも好きだと、思う。1年前、ちょうどこの同じ位置から純子を見ていた。体育祭で大きな声で応援してくれて、まわりを驚かせていた、純子。胸が締め付けられるような想いが、フラッシュバックしていた。

 帰省して以来、龍司は実家で毎日電話帳を眺めていた。純子から、実家のおおよその場所は聞いたことがある。そのエリアに「最上」は3件あった。多分これなのではないかと思う1件があったが、そこから1週間、龍司は電話をかけることに躊躇して動けずにいた。この身動きが取れなくなる純子の魔力は、永遠に龍司から解けることがないのかもしれない。しかし電話をしなければ、大学に戻った後も後悔の念に苦しむことは明白であった。もし他家だった場合、謝罪して切ればいい。意を決して、龍司は受話器を取って番号を押した。

「はい、最上ですが」

 元気のよい女性の声だった。純子の母親だろうか。しかし他家の可能性もあるので、龍司は遠慮がちに切り出した。

「長谷川龍司と申しまして、純子さんの同級生なのですが、帰省してますでしょうか」

「はい、いますよ。ちょっと待ってね」

 受話器が一旦置かれたあと「純子ー! 電話ー!」と、純子を呼ぶ声が遠くに聞こえた。

 純子は、居た。龍司の鼓動が、急加速する。多分いないだろう、と思い込んでいたから、自分から電話をかけているにも関わらず、不意打ちを食らったような感覚に陥っていた。


「もしもし……?」

 4ヶ月振りに響く純子のやわらかな声は、龍司の全身に染みわたるようであった。

「久しぶり最上、元気だった?」

「びっくりした…… 電話、どうしたの?」

 無理もない。そもそも純子に電話したこと自体が初めてだった。純子が帰省しているタイミングも、龍司が知るはずもないからである。

「忘れられなくて、電話した。会いたい」と、本当は言いたかった。それは流石に突発的すぎるので、ごく自然に聞こえるよう言葉を慎重に選択した。

「ちょっとオレも帰省してたんだけど、最上、何してるのかなと思って。電話帳見てかけたんだ」

「あ、そうだったんだね」と、純子。

「最上はいつ帰省してたの?」

「今日」

「え、マジで?」

「うん」

「いつ神戸に戻るの?」

「明後日」

 この上ないタイミングの良さに、龍司は感動が入り混じった驚きを禁じ得なかった。しかし、あまりにも時間がない。もう、すぐに会うしかない。躊躇してる場合ではない。

「最上、今日時間ないの? よかったら会って話そうよ」

「うん。いいよ。1時間後でもいい?」

「わかった。じゃあ ‘’路地裏‘’ に16時で大丈夫?」

「大丈夫。じゃあ、あとでね」

 龍司は静かに受話器を置いた。やった……。ついに、誘えた。学校以外で、初めて純子に会える。鼓動が高まり、その音声が波動となって体外に響き、周囲を揺らすかのような身体の震えが起きた。

「路地裏」は、地元で人気の水色の壁と爽やかな内装が特徴の喫茶店だ。龍司は一度もその店に行ったことが無かったが、会えることに舞い上がってしまい、咄嗟に店名を口走ってしまった。

 純子に、会える。龍司は、高揚していた。二度と会えないかもしれない、と思っていた純子。約束の16時までの1時間が、永遠に感じられた。神戸と仙台の距離や後先のことは、今はどうでも良かった。

 とにかく、純子に会える。ただ、それだけであった。あの日にタイムスリップしていた。体育祭、そして卒業式。顔を見て話せるのも嬉しかったが、純子が持つ独特の清廉なオーラに包まれる時間、そのことを龍司は思い出していた。

 トキメキが去来する。一度、蓋をして閉まっておいていた高校時代の純子への想いがまた再燃していた。もう後悔だけは絶対にしない。純子との繋がりを取り戻し、今度こそは決して離さない、そう龍司は決意していた。

  

 一雨来そうな夏の夕方の空とは対照的に、龍司の心は蒼く晴れ渡っていた。

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