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卒業式の衝撃

 2月 ──

 龍司の進路は、結局、仙台の体育大学と決まった。国立の教育大学の推薦試験には落選。体育の教員免許が取得出来る私立の体育大学へ方向転換し、一般入試で合格することが出来た。

 純子が札幌にいないのだから、どうしても札幌の大学に行く理由はもう無かった。仙台と神戸。陸地がつながっているだけまだマシな方だが、遠過ぎることには変わりはない。

 

 純子とは、他愛もない話に終始していた。想いは変わらなかったが、自分の気持ちを前に押し進めることは得策ではない、そう龍司は自分に言い聞かせていた。

 大人になっても、変わらず忘れないのだろうか。きっと、そんなことはないだろう。青春時代の儚い片想い、そういう位置付けとなり懐かしくたまにふと思い出すに留まるか、もしくは誰か他の人を愛して、すっかり忘れてしまうのか。

 純子との未来が無いことが確定した今、平静さを保ちながらも残り少ない純子との時間をただ無意味に自分に刻み込んでいくことしか龍司には出来なかった。純子は、神戸のどの大学に進むのだろうか。そんなことすら聞けないほど疎遠になった訳ではないが、龍司は聞くことが出来なかった。


 3月1日 ──


 ついに桜ヶ丘高校を卒業する日になった。寂しさ、切なさ、凛々しさ、期待感、清々しさ、複雑極まりない思いで自宅を出て慣れ親しんだ学舎へ龍司は向かった。純子のことで埋め尽くされた1年間だったように思う。顔を見るのも話すのも、今日で最後かもしれない。まだ雪が微かに残る歩道を歩きながら龍司は感傷的になり、泣きそうになっていた。慌しい卒業式の前後に、純子を見つけて話せるのだろうか。行けば必ず会うことが出来た英語の授業は、もう永遠に存在しない。


 卒業式は、粛々と進行していた。毎回歌うのが怠いと思っていた校歌も最後かと思うと何とも言えない想いに駆られた。無事に式が終了し、龍司は卒業となった。

 3組最後のホームルーム。女子の1人が泣き出してしまったのが伝染し、皆、泣いていた。本当に3組は良いクラスだった。「スポーツ馬鹿」ばかりが集まり、学年一団結力があった。いつも冗談ばかり言っていた担任もこの日ばかりはとても寂しそうだった。

 そして解散となった。龍司の高校生活はここに終わった。

 教室で最後の写真を撮ったり、卒業後の連絡先を皆で交換したり、別れを惜しんで話したり泣いたり、そんな時間が過ぎていく。1組のホームルームはもう終わってしまったのだろうか。まだ純子とは会えていない。もう教室を出てしまったかもしれない。校内のどこかにはいるだろうから、とにかく探そうと龍司は急いだ。


 教室の後ろ側の扉から、駆け出すように龍司が出た瞬間 ──

 

 信じられない光景が、目の前に存在していた。


 龍司は、自分の眼を疑った。


 見間違いなのか、それとも、

 

 妄想と現実の世界の区別がつかず、夢遊病にでも侵されてしまったのだろうか。


 あまりにも眩し過ぎて、龍司は思わず眼を細める。

 

 そして一瞬、立ち眩みのような状態になった。


 言葉を発することが、出来なかった。


 

 

 

 

 ロングヘアーをバッサリと切った、






 ショートカットの純子 ──






 龍司が出てくるのを待っていた。

「似合う‥‥ かな」

 恥ずかしそうに俯きながらも、上目遣いで純子は遠慮がちに聞いてきた。その瞬間の純子は、今まで覚えていた美しい純子の記憶を全てかき消してしまいそうになるほど、眩し過ぎて美しかった。倒れそうになる衝撃が、龍司を襲っていた。

「すごく‥‥ 似合ってる。ビックリしたよ」

 何とか振り絞って、龍司はそう伝えた。

 その後の言葉が出ず、純子も同様に何も言わなかった。2人は廊下の片隅で見つめ合ってしまった。

 

 卒業式後のざわめきが嘘のように、音は消えていた。龍司と、純子だけの、世界。

 ショートカットの純子は、イメージしていたより何倍も可憐で美しかった。純子は明らかに、何かを言って欲しいという表情をしていた。ここまでしたんだから、わかるでしょ、そう言わんばかりに。

 これは‥‥ そうなんだな。

 もうここまで来たら、龍司、言え! 男なら言うんだ! 龍司は自分自身を胸の内で鼓舞した。

「あ、あのさ、最上」

 言おうとしたその瞬間、純子を呼ぶ友達の声が。反射的に反応してしまった、純子。


 その場の空気が一変し、2人の世界の結界は消えた。

 たった3秒、見つめ合ったその時間は永遠であった。

 

 そしてそのことが、龍司の中に純子をずっと残してしまったのかもしれない。


 じゃあね、と去っていく純子。永遠の一瞬。

 その場に立ち尽くし動けず、龍司は最後の純子の姿をただ見送るしかなかった。



 雪が溶け始めた3月の北海道。


 それぞれの希望を胸に、皆、夢に向かって旅立って行った。

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