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粉雪

 夏休みに入り、龍司は栃木県宇都宮市を訪れていた。全国高校総体、インターハイが開催されていた。

 龍司が出場する三段跳は、4日間の陸上競技日程の4日目であった。初日から毎日、最終調整の練習をした後はスタジアムで競技を観戦した。あまりにもレベルの高い記録に驚愕し、国際レベルの有名選手や監督も見かけ、テレビ中継なども入っており、田舎者の龍司はとにかく高揚していた。

 北海道から栃木県までは、とても遠かった。飛行機と電車を乗り継いで、一体何時間かかったのだろうか。その距離を実際に体感した龍司は、さらに遠くにある神戸という街が絶望的な距離であることをあらためて認識してしまい、暗い気持ちになった。好きな人が、遠くに旅立ってしまう。よくある典型的な恋愛の話なのかもしれない。その現実を、若過ぎる龍司は未だに受け入れることが出来ずにいた。


 結局、予選を3本跳んで、予選落ち。当たり前の結果だったが、インターハイという目標を達成したことに龍司はとても満足していた。

 

 ひとつの夢が完結し、終わった。

 達成感と、喪失感。

 とても正しい青春がそこにはあった。


 部活を引退し、龍司にもやっと遅めの夏休みが訪れた。ちょっとした燃え尽き症候群。そして純子が神戸の大学に行くということが、龍司の毎日を怠惰なものにさせていた。グラウンドに顔を出しても、身が入らない。後輩の練習を見てやったり気を紛らわせていたが、とにかくそれ以来、龍司はフワフワしていた。

 このままもっと純子のことを好きになってしまったら、一体自分はどうなってしまうのだろうか。恐怖心に近い不安感に苛まれて、胸がヒリヒリと痛んだ。ある程度、気持ちの進行を抑えていかなければ生活に支障が出てしまうような気がしていた。これから受験シーズンに入り、ますます恋愛などしている場合ではなくなってくるが、真逆の方向に龍司は進んでしまいそうになっていた。


 北海道の短い夏も終わり、2学期となった。1ヶ月もの間、純子と話していなかったが、相変わらず龍司の頭の中は純子で埋め尽くされていた。

 2学期初の英語の授業。久しぶりに会う純子は、やはり美しかった。しかし、何故だろうか。今までは会うたび話すたびに幸せな気持ちになれていたのに、とにかく胸が痛くて仕方なかった。

「会いたいのに、会いたくない」

 そんな矛盾するフレーズが、今の龍司の心境にはにはピッタリの表現であった。神戸に行く、という事実は、龍司を「純子からフラれたのと同様の状態」にさせていた。

 相変わらず最高に眩しい笑顔で話しかけてくる純子。時には龍司の真正面まで移動してきたりもした。龍司は本当は嬉しくて仕方のないはずなのに、何故か純子の顔を見て話せなくなっていた。このままだと、本当に誤解されてしまいそうだった。実際に、あまりにも目を合わせない龍司に悲しそうにしている純子もいた。

 どうにかしないと、疎遠になってしまう。龍司は焦っていたが、それをどうすることも出来ないでいた。このまま卒業を迎えてしまえば、きっともう二度と会うことはない人になる気がしていた。あまりにも遠くに旅立ってしまう純子を龍司はただ見送ることしか出来ない。

 手を打てないまま、刻々と日々は過ぎていく。


 文化祭も終わった10月の後半、北海道には初雪が観測されていた。


 悲しく切ない龍司の心に、純子の真っ白な柔肌のような粉雪が、静かに舞い降りていた。

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