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ショートカット

 体育祭以来、龍司と純子の間に流れている雰囲気は加速度を増して進展していた。以前より積極的に話しかけてくる純子。龍司は他の女子とは堂々と話せたが、純子とはなかなか目線を合わせて話せなくなっていた。好きだという気持ちが増幅するにつれて、恥ずかしさに勝てず目を逸らしてしまう。その自分を誤解されるのが心配だった。本当はもっと話したいのに、目を逸らしていたら逆の意味で取られないだろうか。胸に押し寄せる切なさと恥ずかしさに、どうすることも出来ない18歳の純粋な少年だった。

 廊下で友達と2人で歩いてくる純子がいた。龍司の存在を発見すると、恥ずかしげもなく笑顔で手を振ってくる。龍司も軽く手を上げ、笑顔で応えた。キュン、として胸が苦しくなった。

 次の授業が始まっていたが、龍司は上の空だった。この気持ちを「キュン」という文字で表現することにしたのは一体誰なのだろうか、というどうでも良いことをひとり考えながら、シャープペンシルを空中でクルクル回し、窓外の夏らしい雲が浮かんでいる青空をただ眺めていた。

 そんな甘酸っぱい青春の日々は、穏やかに時を刻んでいた。あと半年も経過すると卒業となり、それぞれの道に流れて行くことになるのは頭では理解していたが、この時間が永遠に続くような、そんな錯覚にも陥っていた。


 ある日の英語の授業前に、龍司は純子に質問された。

「長谷川くんの好きな、女子の髪型って、どんな?」

 ここは素直に答えるべきかな、と思い「ショートカット、かな」と返答したが、直後に後悔した。ロングヘアーの純子が、それを聞いて良い気分になる訳がない。鈍感過ぎる自分に嫌気が差してきた。裏腹に、純子はニコニコしながら「へー、そうなんだ〜」と屈託の無い笑顔を見せる。

「最上、絶対にショート似合うと思うな」

 先程の失言をなんとか取り繕ってみた。純子は幼い頃からロングヘアーで短くしたことがない、と言っていた。純子はいつも機嫌がよい人だった。龍司と会話している時、逆に真顔をあまり見たことが無い程であった。

「短いの、似合うかな」

 サラサラなストレートを細く白い指で撫でながら、純子は言った。その一連の所作に、また龍司は心を奪われていた。

 その日の夜、龍司は自宅の部屋で純子との会話を思い出し、自分が犯した大失敗を何度も悔やんでいた。なぜロングのストレート、と言わなかったのか。馬鹿過ぎる自分にうんざりした気持ちになる。

 ショートカットの純子。イメージするだけで可愛すぎて、胸が痛くなった。絶対に似合う。もう龍司の純子への想いは、誰にも止められない熱量へと上昇していた。


 夏休みに入る前に、告白しよう。

 龍司の心は決まった。後悔するかもしれない。相手にされないかもしれないが、純子は断るにしても決して自分のことをないがしろにはしない確信はあった。

 

 しかし、この日の龍司と純子の髪型をめぐる何気ない会話が、2人の後の人生にとって大きな意味を為すことになろうとは、この時点では2人とも知る由も無かった。

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